2台のトランスアクスル・ポルシェの違いを明らかにする│924カレラGT & 928S

Photography: Antony Fraser

ポルシェ924カレラGTと928Sは同じ思想から生まれながら、同時にこれ以上ないほどかけ離れている。この二台の違いを明らかにする。

この二台の違いは少なくない。年式では3 年の差があり、エンジンは4 気筒と90bhp の違いがある。一台はレースのために生まれ、もう一台は洗練されたGTとして生を受けた。そもそも前者は本当ならアウディとして誕生するはずだったのである。さらに924カレラGTは、特別なモデルゆえずっとパワフルなもう一台の3 倍もの価値があるという。

それでも、この2台には共通のエンジニアリング思想が流れている。どちらもリアに搭載されたギアボックスを通じて後輪を駆動する。いわゆるトランスアクスルである。エンジンは水冷でフロントに積まれているとはいえ、あの911と通じる何かを備えている。

フェリー・ポルシェ自身は1969 年に語っている。「私たちの車のエンジンが水冷であろうと空冷であろうと、それは重要なことではない。大切なのはそれが正しく働くことだ」

エンジンをフロントに積むことで、ポルシェはほぼ理想的な重量配分を実現した。それはフェルディナンド・ポルシェが戦前のメルセデス"シルバーアロー" レーシングカーの開発を通じて得たノウハウを活かしたものだという。

リアディファレンシャルと一体化されたギアボックスは、プロペラシャフトを内蔵したバックボーンチューブでエンジンと連結されている。マニュアル車の場合、このような長いリンケージにはつきものの"しなり" を抑えるために、シフトレバーはチューブに直接マウントされている。



2台それぞれに興味深い開発ストーリーがあるが、できるだけ簡潔に説明しよう。ポルシェとVWは、911の弟分に当たる4気筒ミドシップの914を共同生産していた。しかし1974 年にVWはゴルフとそのスポーツクーペ版のシロッコに経営難からの復活を賭け、両社のジョイントベンチャーには終止符が打たれる。1976年に最後の914がカルマンの生産ラインから静かに消え、911 だけが残されることになった。当時、騒音やエミッション、衝突安全規則がさらに厳しくなることが予想され、それすら販売できなくなったかもしれない。

911の上に位置し、もしかするとそれにとって代わるかもしれない、新しい水冷フロントエンジンの高級クーペが企画されたのはそんな時代のことだ。その車は結果的に1978年に928として発表されたが、より手ごろな914の代わりとなるモデルはどうなったのか。

実は1972 年に、VWはポルシェに4気筒フロントエンジンのフラッグシップ・クーペの開発を依頼していた。それはアウディのエンブレムをつけて世に出る計画だった。ところがVW がその契約を破棄、すでに製造設備は準備され、開発テストも進んでいたがVWはシロッコで充分だと判断した。そこでポルシェはその製造権を買い戻し、アウディのネッカースウルム工場で、自分たちで生産することになった。それが1976年に発表された924である。

このようにして両社は袂を分かったが、この924は1948年に生まれたポルシェ356と同じように、VWグループのパーツを多数使用して造られた。たとえば、リアマウントのトランスアクスルはFWD のアウディ100 用ギアボックスをベルハウジングまでそのまま使っている。またフロントサスペンションはゴルフ・ベースで、強化型のロワーウィッシュボーンはシロッコ用のもの、さらにトーションバーを使ったセミトレーリングアームのリアサスペンションは911 の形式を踏襲したものだが、パーツ自体はビートル用を改良したものである。ラック・ピニオン・ステアリングもVW のもの、前ディスク/後ドラムのブレーキはNSU K70 サルーンのものが流用されていた。



OHCの4気筒エンジンは長いことVW のバン用エンジンだと軽んじられてきたが、もともとはアウディ100 用に設計されたものである(もっとも実際にVW商用車やAMCグレムリンにも搭載されたが)。ただし、ポルシェが専用開発したシリンダーヘッドと燃料噴射によってパワーは125bhp に達した。車重1080kg、しかも空力的なデザイン( Cd = 0.36 )の車に対しては充分なものだった。そのスタイリングはハーム・ラガーイ(彼のポルシェでの初仕事)とアナトール・ラピーヌによるものだ。ラピーヌは「正しいデザインは何年たっても色褪せない」と語ったが、924はまさにこの言葉を試すモデルだった。

ラピーヌは928のスタイリングも担当した。開発は1971 年に始まったが、オイルショックの影響で一時中止され、その間ポルシェは924 に集中し、1974 年になって再び作業がスタートしたという。エンジンはポルシェ設計の新型4.5リッターV8 、その片バンクは後に944のエンジンに生まれ変わることになる。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Glen Waddington 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事