フィアットの帝王が作り上げたフェラーリでイタリア国立自動車博物館へ行く

フェラーリ166MMトゥーリング・バルケッタ



1967年に元アニエリのバルケッタを購入すると、46年間にわたって家族のように大切にした。1980年代には愛情のこもったレストアを施し、塗り直されて赤になっていたボディカラーをアニエリのブルーとグリーンに戻している。0064Mはミッレミリアやリディア・フェラーリなどのヒストリックイベントで輝かしいキャリアを積み、ニューヨーク近代美術館やベルリンの国立美術館などにも展示された。

また、今では多くの事情通に知られている愛称もこの頃に授かった。イタリア語で「おばあちゃん」を意味する「ノンナ」だ。スワターズはノンナの行く末も気にかけ、2010年に亡くなる前に、自分が死んだらクリーヴに売るようにと娘に言い残していた。1989年に"彼女"を初めて見たときから熱烈に信奉していたクリーヴ・ビーチャムは、こうして2012年にアニエリのバルケッタをロンドンに持ち帰ることとなったのである。

私はスワターズ氏に会ったことはないけれども、この後継者には満足しているのではないかと思う。クリーヴは、まるで本当の祖母のようにノンナに敬意を払い、大切に世話しているのだ。それだけでなく、週末はたいていこの車をドライブしており、ヨーロッパ横断のロードトリップもしたし、2013年にはミッレミリアにも出走した。また、1950年代にレースで傷めたノーズを最近トゥーリングで修理した以外は、スワターズがレストアしたときのまま手を加えていない。コンクールに熱心なわけではないが、様々なショーに頻繁に参加し、2015年のヴィラ・デステでは、招待客と一般客、それぞれの投票で決まる二つの最優秀賞を両方とも受賞するという快挙を成し遂げた。

午後は刻々と過ぎていき、トリノへ戻る時間になった。ノンナを博物館のステージに送り届けなければならない。クリーヴと私は交互に運転し、轟音を上げてアウトストラーダを駆け抜けながら、目を丸くする人々に手を振っては、その人たちが翌朝、職場でどんな話をするだろうかと想像して笑い合った。

どうせなら、もっと深遠な会話をするべきだったのかもしれない。たとえば、戦後、何とか生き残ろうと必死だったトゥーリングとフェラーリにとって、166MMがどれほど大きな役割を果たしたか。あるいは、2社の成功にはアニエリの存在も不可欠だったのではないかといった話だ。

けれども、エンジンは騒々しいし、私たちはすっかりくつろいでいたので、ほとんどの時間を費やして、この車にぴったりの表現は「美しい」「素敵」「チャーミング」のどれだろうかと話し合っていた。結果、大差で選ばれたのが「チャーミング」だ。エキゾチックでもセクシーでもない。クラシカルで、魅力的で、離れがたくなるほどチャーミング。忘れられない初恋の人に似ている。やがて博物館に到着したとき、ステアリングを握っていた私は、ドライブもこれで終わりかと思うと少し悲しい気分になっていた。

博物館から、中まで乗り入れてくれと言われたので、私は運転を代わろうとドアを開けた。すると、クリーヴは車の脇に立って、ただ笑顔でうなずき、そのまま進むようにと手で示すのだ。それでこの私が、イタリア国立自動車博物館のエントランスを、ジャンニ・アニエリの最初のフェラーリで上っていったのである。かの偉人のように颯爽と、落ち着き払った風を装って。

カフスの上に腕時計をしてキメる自信は私にはないけれど、ブルックスブラザーズのシャツなら何着か持っている。あのはめにくい襟のボタンを外して、アニエリを気取ってみるのもいいかもしれない。

取材協力:カロッツェリア・トゥーリング・スーパーレッジェーラ(www.touringsuperleggera.eu)、イタリア国立自動車博物館(www.museoauto.it)




1950年フェラーリ166MMトゥーリング・バルケッタ
エンジン:1995cc、V型12気筒、SOHC、ウェバー製32 DCFキャブレター×3基(オリジナルは1基) 
最高出力:240bhp/6600rpm 
最大トルク:16.2kgm/5000rpm 変速機:5段MT、後輪駆動 
ステアリング:カム&レバー 
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、
横置きリーフスプリング、油圧式ダンパー
サスペンション(後):リジッドアクスル、半楕円リーフスプリング、油圧式ダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:4輪ドラム 最高速度:193km/h  0-100km/h:10秒(推定値)

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.)原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Dale Drinnon Photography:Martyn Goddard

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