コレクターだからこそ価値がわかる|フェラーリ250 カリフォルニア・スパイダーが特別な存在である理由

1961年式フェラーリ 250GT SWB(Photography:James Lipman)



スカリエッティの仕事
ピニン・ファリーナは、すでに1957年3月にジュネーヴで発表された250ベースのソフトトップモデルのデザインを終えており、プロトタイプの"250 Spider"は、エンツォ自身によってレーシングドライバーのピーター・コリンズに託された。しかしその後すぐに、「カリフォルニア・スパイダー(Spyder:綴りの違いについては後述)」と名付けられることとなるスパイダーが、スカリエッティに委託された。流線型のヘッドランプ、ぐっと上がったリア、ルーバーを施したフロントフェンダーなど、一部ピニン・ファリーナのデザインキューを採用して「デュアルパーパス」ソフトトップフェラーリを独自に解釈したものである。スカリエッティのプロトタイプは1957年後半に完成し、1958年初期に東海岸をベースとするキネッティのビジネスパートナー、ジョージ・アレンツに納車された。

アレンツ自身は、カリフォルニア・スパイダーの熱狂的なファンというわけでは、まったくなかった。1989年に書かれた手紙の中で、彼はスカリエッティの製造工程についてこう記している。

「彼らが持っていた唯一の治具は、ウインドスクリーンをスカットルにはめ込むときに使用する、ブロンズ製の間に合わせで造ったものだった。あとは、フレームに溶接棒を取り付け、それを曲げてフェンダーなどの大まかな形を造る。そして若手が支える金属の塊を熟練の職人がこれでもかというほど叩いては首を横に振り、また形を整える。これを何度も繰り返し、全員が納得するとそれを所定の場所に溶接して、次のピースにとりかかる…」

もちろん、今となってはこの昔ながらの手法がカリフォルニアの魅力のすべてだということもできるだろう。これは、コンピューターでデータを操造するスキルではなく、確かな目を持つ職人によって造られた車なのだ。この時代のフェラーリは、文字通り芸術品であり、手造りのものすべてがそうであるように何かしらの不完全性を備えている。私たちはこれを「個性」と呼ぶ。

スカリエッティの製造工程の真実がどうであれ、カリフォルニア・スパイダーの基礎に悪い点はほとんどなかった。ポール・マイケルズはこの車を「カットオフルーフの250」と簡潔に説明したが、これはすでに250でその能力が実証されている「ツール・ド・フランス」と呼ばれるシャシー、そしてさらに進化した3リッターV12エンジンが採用されていることを表している。

カリフォルニアの最初のモデルには、ポールが所有する第2世代のホイールベース(新型250SWBでは2400mm)よりも長いホイールベース(2600mm)が採用されていた。そのため、カリフォルニアは「ロングホイールベース(LWB)」と「ショートホイールベース(SWB)」バージョンに分けられる。LWBの50台は、1958年半ばから1960年代初期に造られ、その後1963年初期までにわたり、さらに54台のSWBバージョンが造られた。ひと目で簡単にバージョンを見分けるには、LWBのフロントウィングルーバーは3本であるのに対し、SWBは2本という点を見ればよい。SWBのボディはスチールかアロイ製で、オープン型または流線型カバー付きのヘッドライトを備える。顧客の要望に応えるためにできること、ほぼすべてがなされていると言っていいだろう。

細かいことだが、「Spider」と「Spyder」の2種の綴りが存在することをご存知だろう。「スパイダー」とは古いコーチビルディングの用語で、馬車の御者用シートが蜘蛛のようなフレームワークで支えられていたため、このシートが「スパイダー」の名で呼ばれ、後に蜘蛛のような構造を持つ軽量ロードスターに使われるようになった。そして、カリフォルニアの場合スパイダーは、一般的にイタリアでは「i」を使って「Spider」と綴られるのに対し、常に「Spyder」と綴られた。イタリアのアルファベットに「y」はないにもかかわらず、現在のカリフォルニアのパンフレットでは、一貫して「Spyder」と書かれている。これに対して特に異議を唱える人もいないだろう。

顧客は、カリフォルニアのささいな諸元や言語的な意味については、さほど関心がなく、ほとんどの購入者はそのスタイルに魅了された。ブリジット・バルドーにSWB"2175GT"を贈った映画監督のロジェ・ヴァディム。SWB"3021GT"を購入した『悲しみよこんにちは(Bonjour Tristesse)』の著者、フランソワーズ・サガン。バイヨンのコレクションカーになった、SWB"2935GT"を購入したアラン・ドロン。そして1964年に中古のSWB"2377GT"を購入したジェームズ・コバーンなど、数多くの今でいう「セレブリティ」たちが、こぞってこのセクシーな新型フェラーリをステータスとして手に入れた。ジェームズ・コバーンが購入した"2377GT"は、2008年のオークションでイギリスのDJ、クリス・エヴァンスが、560万ポンドで落札したことを覚えている人もいるだろう。当時は過去最高の落札価格として話題になったが、今となってはさほど驚く金額ではなくなった。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Mark Dixon Photography:James Lipman 取材協力:ポール・マイケルズ、キャメロン・ミッチェル、フィリップ・キリアコウ、ベン・ホ

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