クラシックカーの価値はお金の問題ではない!│アストンマーティンDB5を所有して

Photography: Andrew English

奇妙なことに、人はいたるところで金銭的な助言をしたがる。自分がアストンマーティンを所有していると知られた場合は特にそうだ。しかもそれがDB5であることも知られると、さらにいっそう多くの助言を頂ける。数年前、『トップ・ギア』のスティグの後釜となったクリス・ハリスは、「DB5なんかは売ってしまって、まともなレーシングカーを買うべきだ」と私に言った。

そして昨年、ウェブサイトの権威であるオネスト・ジョン、ピーター・ロリマー氏は、スーパーカーディーラーであるトム・ハートレー氏のアドバイスを私に伝えてきた。それは、「金利が上がった途端に古い車の価値は急落する」というものだった。ああ、そしてクリスマス直前に政府が10年ぶりに本当に金利を上げたとき、友人たち、同僚たち、それに家族からの「あの車は売った方がいい」という声は耳をつんざくコーラスのようになった。みんなが私のことを心底気にかけてくれているようで、まったくもって嬉しい限りである。



しかし、もしうちの家宝である「ゴボ」(訳注:ゴボ=Gobbo:イタリア語で猫背の意)を売りに出すとしたら、それは金利高騰のせいではなく、その投資価値について繰り返し説明されて疲れきってしまったから、という理由だろう。この車を運転することや所有することの喜びについては、今まで誰も聞いてくれなかった。それに、投資としての将来性は大して明確でもない。私は「ゴボ」を所有してきたほぼ四半世紀の間に、様々な修理などを行った。ボディの一部リビルド、エンジンとギアボックスとリアアクスルの完全なリビルド各2回、終わりのないサスペンションのリビルドと修理、全塗装は2回、数え切れない程のキャブレターのオーバーフロー、完全に動かなくなったこともあった。

ついでにドライバー席と助手席の両方のシートの修繕、などなどだ。それに加え、毎年の修理、タイヤ、ガソリン、高価なブレーキ、とても高価なオイル、フロントガラス数枚、などもあった。というわけで、その費用はトータルで16万ポンド(約2500万円)は下らない。



もちろん、昨今のクラシックカーシーンの上層はミリオネアたちにほぼ占拠されており、修理や部品の価格には恐るべきインフレが起きている。例えば、キャビン内のインテリアランプだ。こういったヘラー社製のプラスチック製部品は全くのガラクタである。確かアストン、メルセデス、VWなどにも使用されていたはずだ。コイツはフェストゥーン電球の中心部の熱で、透明なプラスチック製のランプカバーがもろくなり、デリケートなクリップが壊れたあげく、カバーが膝の上に落ちてくる。

そこで、私はダービーのアストン・エンジニアリング社のエイドリアン・ムストーから、何年も前に現金たった20ポンド(約3000円)でそのカバーを6個も購入した。その後、先週最後の1つが膝の上に落ちてきたので、最近の値段を聞いてみようと電話した。しかし、そっと受話器を降ろす結果となった。なんと、108ポンド(約1万7000 円) プラスVAT(付加価値税( Value Added Tax))だという。ここで、ファインアートのレストアをしている私の愛妻フィリッパが、彼女の腕前を活かしてありがたい貢献をしてくれた。壊れたランプを直してくれたのだ。



アストン・エンジニアリング、ダヴロン(「ゴボ」もお世話になっている)、リチャード・スチュワート・ウィリアムズなど、評判の良いアストンのビルダーに入ってくるデイヴィッド・ブラウン世代の車は、今やすごい数になっている。まるで戦争捕虜収容所でのタバコのように、それらは投資用になっている上、ほとんどが使われていない。あるレストアラーは、「この車たちは道路を走らせてもらえないのさ」と言っていた。

でも、そんな風におめかしされたDB4、DB5、DB6は、本当に良い車なのだろうか?先月、しっかりと高額の修理を終えて(新品のハブとブレーキのマスターシリンダーを含む)、デイヴィッド・リードが「ゴボ」のキーを手渡しながら、こう言ってくれた。「外観がやたら美しくても中身が酷すぎるDBに何台も乗ってきたが、君の車のようにきちんと整備されたものを運転するのは本当に最高だね」

人は皆お金について話すのが好きなのは知っているが、私はそうでもない。今度「ゴボ」について語るときは、できれば運転する楽しさについて話したい。本当に退屈な金銭的な価値についてではなく。

Words: Andrew English 訳:オクタン日本版編集部

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