イギリスが生んだ偉大なドライバー デレック・ベルに聞く栄光の日々

Photography:Delwyn Mallet and Getty Images



デレックは1970年にスティーブ・マックイーン主演の映画『栄光のル・マン』にドライバーとして出演した。その際のベルの逸話はいくつもあるが、私にはどうしても聞かずにいられないものが、ひとつあった。917でホワイトハウス・コーナーを全開で抜けたベルは、あるものを見つけて仰天した。1人のカメラマンがコース上で腹ばいになっていたのだ。それはマックイーン本人で、ベルは間一髪でよけられたが、身の毛もよだつ瞬間だった。

真夜中にはっと目覚めて、「スティーブ・マックイーンをひき殺した男として記憶されていたかもしれないと考えることはないか」と聞くと、デレックはこう答えた。「しょっちゅう彼を思い出させることが起きるんだ。昨日、腕時計のベルトを修理しようと時計屋に行ったら、TAGホイヤーが目に入った。『ル・マン』をやったときに、スティーブはそれを1個くれたんだ。裏には『デレックへ 成功を祈る スティーブ』と入っていたんだが、それをなくしちまったんだ。でも、店にいる間に彼のことを考え始めた。よく手紙をくれてね。文字が書けるなんて思いもしなかったよ。昔、私はイギリス南部のボグナー・リージスにカーアクセサリーの店を開いたんだが、ある日、1通の手紙を受け取った。それはスティーブからのお祝いの手紙だった。うれしかったよ。本当にいい友人同士で、撮影中は家をシェアした。だが、その手紙も捨ててしまったんだ。あの頃は、そういうものにたいして意味がないような気がしていた」

「最近は取っておくようになったよ。この間、スターリング・モスが手紙をくれたが、もらった手紙はみんな取ってある。あの人は私にとって本物のヒーローなんだ。14歳の頃に写真を送ってもらった封筒まで取ってあるよ。今はもちろん、いい友人同士だ。こっちに来たときは、週に2回くらい一緒に食事をする」



「私がここに家を構えたのは、スターリングのおかげでもあるんだ。1985年にマイアミグランプリで優勝した(ポルシェ962)。たいへんなレースで、ラスト10周で3位から勝ち上がったんだ。表彰式を済ませて、パドックを抜けて戻る途中だった。日曜の夕暮れ時で、ほとんどの人はもう帰っていたよ。スターリングが近寄ってきて『よくやったな。素晴らしい走りだった』と言ってくれた」

「『親切にありがとうございます。憧れの人がそう言ってくれるなんて』と言うと、こんな答えが返ってきた。『君が私の憧れの人だよ』これには本当に胸を打たれた。家の壁にもらった写真を飾っている。そこに彼はこう書いてくれた。『スターリングより。もしも…』いつも私にいうんだ。もしも、私が15年早く生まれていたら、スポーツカーで世界一偉大なペアになれたのにと。最高の褒め言葉だよ」

デレックが深く心を打たれるのは無理もない。子どもの頃のヒーロー、その背中を追いかけてモータースポーツの世界に入ったその人と、親しい友人になれたのだ。ベルが素晴らしい人物だという理由もそこにある。今も10代の頃に抱いたこのスポーツへの夢と情熱を失わず、人間のことが心から好きなのだ。誰についても、まったく悪くいうことがない。それに加えて、真の紳士らしく、謙虚であり続けている。

その証拠に、インタビューを終えるに当たって、ファンである私が四半世紀前に取ったレース中の彼の写真に、快くサインしてくれた。本当にありがとう、デレック。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA  Words:Delwyn Mallet 

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