マックイーンが愛した「XKSS」|免許を失いかねないほどLAを駆け抜けた相棒の帰還

ジャガーXKSS(Photography: Evan Klein)



ダークカラーを好んだマックイーンは、ホットロッダーとして名高い"ローナー"(一匹狼)ことトニー・ナンシーにXKSSを送り、ボディはブリティッシュ・グリーンに、インテリアは黒のレザーに仕立て直した。完成したXKSSを"グリーン・ラット"(緑のネズミ)と名付けると、マックイーンはロサンゼルスの街を駆け巡り始めた。警察に目を付けられていたのは有名な話だが、どうやら逃げ切ることが多かったらしい。ロサンゼルス市警はマックイーンを捕まえた警官への報奨として、ビバリーヒルズの名店"ロウリーズ"でのステーキディナーを約束していた。マックイーンは、XKSSを入手した1年目だけで、二度も免許を失いかけたようだ。

有名なエピソードをもうひとつ紹介しよう。ニールを乗せてXKSSで走っていた際に、パトロール中の警官に止められたマックイーンは、妻の陣痛が始まったと嘘をついて、警官と一緒に病院まで飛ばしていったのだ。確かにニールは妊娠していたが、まだ6カ月だった。警官が立ち去ると、看護婦に「気のせいだった」と言ってまんまと帰宅した。しかし、ニールはカンカンで、その日1日、口をきかなかったという。

「マックイーン XKSS」で画像検索をすると、名優とその愛車を収めた写真がいくつも出てくる。カウボーイの衣装に身を包み、銃身を短く切りつめたライフルを腰から下げている写真は、テレビドラマ『拳銃無宿』のセットで撮られたものだ。XKSSに馬をつないだ写真まである。

また、映画『マンハッタン物語』の撮影中には、毎朝、ソーラードライブの自宅からハリウッドヒルズの曲がりくねった山道をXKSSで駆け抜けて、共演のナタリー・ウッドを迎えにいった。そして、サンセット・ブルバードのオールド・ワールド・レストランで一緒に朝食をとってから撮影に臨んだのである。

XKSSを愛用していたマックイーンだが、1967年に車を売却することにした。このままでは本当に免許を失いかねないと考えたのか、あるいは、新発売のフェラーリ275 GTB/4をオーダーしたことにも何か関係があったのかもしれない。

しかし、完全に手放すつもりではなかった。少なくともマックイーンにその意志はなかったようだ。あくまでも「便宜上の売却」だったとのちに弁護士が述べている。売却先は有名なリノのハラー・コレクションで、マックイーンによれば、口頭ではあったが、他の誰にも運転させたり売ったりしない約束だったという。

だが、10年後に買い戻したいと申し入れたというマックイーンの頼みをハラーは拒んだ。法的介入を経てようやく買い戻すことはできたが、売却金額より大幅に高くついた。これが1978年2月のことだ。それから3年足らずで、マックイーンは50歳でこの世を去る。ガンで手術を受けた直後の心臓発作が原因だった。

マックイーンが愛してやまなかったXKSSは、かつて彼と近所付き合いをしていたリチャード・フレッシュマンが1984年に購入し、イギリスのジャガー・スペシャリストであるリンクスでレストア。その後、2000年にロサンゼルスのピーターセン自動車博物館が買い取って現在に至っている。博物館ではXKSSを定期的に走らせ、時折、写真のようにブレントウッドにあるマックイーンの邸宅"キャッスル"に里帰りさせることもある。

愛車XKSSでサンセット・ブルバードを飛ばすマックイーン。彼がこの車を所有していた1960年代には、こうした光景がよく見られた。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: David Lillywhite Photography: Evan Klein

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