ヴォアテュレット E.R.A.からBRM | JACK Yamaguchi's AUTO SPEAK Vol.10

1934 E.R.A.R2A第1世代A型。2008年の仏モンレリー・イベント。(Wiki Simon Davidson photo)



もうひとつ、メイズの信頼を得た理由は、彼の盟友ピーター・バーソンとの"誌面遭遇"であった。1964年、知己の英国レースライターでフォトグアファーのデイヴィド・フィップスの依頼で、彼が編集長を務める『AUTOCOURSE』年鑑に書いたことがある。F1を主に、インディ、スポーツカー、ラリーなど国際レース記録とその解説をした年鑑だ。

読み物部分の先頭が第二次大戦前のE.R.A.で、戦後のBRM期前半に技術、特にエンジン担当をしたピーター・バーソンの『未来のレーシング・パワーユニット』であった。その時、彼はすでにBRMを離れ、航空機技術分野に戻っていた。なんと文中、1966年発効の3.0リッターF1に向けてBRMがH16を開発中だと明かした。ただ、彼は別のタイプを提案していた。レシプロ、ヴァンケルRE、ガスタービンの可能性(後2者は悲観的)など、興味ある分析であった。

私の『昇る太陽』は、日本におけるスポーツ、スポーティカーの出現の現状と国際レース進出の推測。すでに、1964年にはホンダがF1に参戦していた。手頃な値段、充実した装備、高い品質で欧米に売れ始めた日本車の代表としてトヨタ・コロナ、F1コンペティター中でも特異な機構で挑戦したホンダRA271の対比が写真1ページ目になった。メイズが『AUTOCOURSE』年鑑を覚えてくれていたのも、彼の好意につながったと思う。

ケンブリッジ大卒、羊毛業、レーシングカー・コンストラクター、ワークスドライバー
レイモンド・メイズは、1899年8月、イングランド中東部リンカーンシャー・ボーンの富裕な家庭に生まれた。"イーストゲイト"と呼ぶ邸宅は、のちにE.R.A./BRM工場を建設するほどの敷地があった。羊毛業経営者の父は、自動車エンスージアストで、チューンしたヴォクスホール(GM以前独立メーカー時代)でレースに出場するほどだった。

レイモンドは、幼年期の家庭教師、準備校から名門オウンドル校へと典型的エリート教育過程を進む。第一次世界大戦では士官候補生として従軍するが、フランス転戦の際には、専属従卒までついた。戦後、ケンブリッジ大学入学し卒業した。彼は英国社会で成功する大切な要素、『正しい英語』を話した。

オウンドル、ケンブリッジでは、卓越した才能を有する学友に恵まれた。オウンドルの同級生のひとりがアムハースト・ヴィリアースだった。彼はエンジン技術者で特にスーパーチャージャー設計製作で有名だ。戦前、ル・マンで活躍したベントレー・4 1/2リッター・ブロワーのスーパーチャージャーは、ヴィリアースの手になる。ヴィリアースは007ジェームズ・ボンド・シリーズ作家イアン・フレミングの親友でもあり、ボンドの愛車はブロワー・ベントレーだ。

メイズは、ケンブリッジ校時期にヴィリアース・チューンのヒルマンを駆り英国内レースで頭角を現した。ヴィリアースは優れた肖像画家でもあり、ロンドンの国立肖像ガラリーに彼の描いたフレミングとBRM世界チャンピオン・グレアム・ヒルの肖像画が展示されていた。

大学時代のメイズの本職は、父親の羊毛業であった。富裕とはいえ、バリバリのレーシングカーはおろか、生産モデルのチューニングに投じる資金には限りがある。オックスブリッジ英語と卓越した弁舌は、スポンサー獲得の武器となる。ヒルマン社ではのちにローバー社、スタンダード社の社長となるふたりの役員の支援を得た。

卒業後に襲った不況で、メイズも家業を継ぐ準備として、同業社に見習い就職をする。イギリスの"アプレンティス・システム"だ。しかし、彼の中のレースの虫はおとなしくしていなかった。1922年シーズン直前、ブガッティがイギリスで最新モデル、"ブレシア"を限定販売すると発表。メイズは有金すべてと分割払いで1台を購入した。ブレシアによる活躍で国内トップドライバー仲間入りをする。

同型車を所有した"本物"の富豪レーシングドライバーのハンフリー・クックとメイズは、クックの車でモルスハイムに向かい、エットーレ・ブガッティに面会した。メイズの熱弁によって、偉大な"ル・パトロン"から、彼のブレシアの完全整備に加え、もう1台ブレシアの寄贈を取り付けた。

かくして、1924年シーズンは、メイズと親友ヴィリアースは、"コルドン・ブルー"と"コルドン・ルージュ"と名付けた2台のブレシアで活躍した。ふたりの次のプロジェクトはA.C.のスーパーチャージ化であったが、これは失敗に終わった。

文、写真:山口京一 Words and Photos:Jack YAMAGUCHI

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