ジョンとヨーコの霊柩車|映画『イマジン』に登場したオースティンA135プリンセス

"イマジン"に登場したジョンとヨーコの霊柩車(Photography:Stephen Kim)

「彼らは夢想家だ」とあなたはいうかもしれない。しかし、映画"イマジン"に登場した霊柩車が本当にロンドンのオークションに現れたのだ。

ジョン・レノンとオノ・ヨーコが所有した車の中でといえば、1956年製オースティン・プリンセスの霊柩車ほど安価に思えるものも他にない。ただし、たとえふたりの一風変わった車の嗜好を受け入れたとしても、霊柩車の後部に航空機用のシートを取り付けるという趣味はいかがなものだろうか。

"イマジン"
実際、この車には航空機用のシートが取り付けられているが、その順番はいささか入り組んでいる。いまも残る車検証のページを手繰れば、そこにレノンのサインが記されていることに気づくはずだ。さらに証拠が必要なら、1972年に撮影された映画"イマジン"を見てみるといい。そこには、この車がジョンとヨーコを乗せ、ふたりが郊外に建てた邸宅の雄大な敷地を走っていく映像が収められている。しかも、それは一瞬で終わってしまうほど短いシーンではない。

過去8年間、この車はテキサス州のオースティン・ロックンロール・カーミュージアムで展示されていた。もともとの所有者はオースティンを拠点として興行を営むミルトン・ヴァレットだ。自動車好きであれば、STPロータス56や"ジェット・ベット"の愛称で知られるガスタービン車のコレクターといったほうが通りはいいかもしれない。この霊柩車は、ヴァレットから博物館に寄贈されたものなのだ。

ビートルズの足
先ごろ、売却益の一部をUNICEFに募金することを条件に、博物館がオースティン・プリンセスを売却することにヴァレットは同意した。この結果、私たちはジョンとヨーコが残した霊柩車を間近に見るチャンスを手に入れたのである。なお、オークションはRMサザビーズの手で2016年9月7日にロンドンで行われ、予想価格は18万5000〜26万ポンドと高額だった。

その佇まいは実に堂々としたもの。ボディワーク、クロームパーツ、そしてインテリアにはいくぶん光沢も残っており、全体的にはほどよい威厳が保たれている。この車が未来永劫、「レノンの霊柩車」と呼ばれることは間違いない。ベースモデルの正式モデル名はオースティンA135プリンセスという。もっとも、生産された当時は、ロールス・ロイスやベントレーに対する販売上の競争力を高める(といっても価格はオースティンのほうがはるかに安いが…)目的で、オースティンのバッジは取り外され、単にプリンセスを名乗っていた。

活動中だったビートルズは、こうしたオースティンのリムジン仕様をよく利用していたが、モデル名や価格に大した違いはない。目につく部分といえば、熱狂的な"ビートルマニア"に追いかけられたメンバーが車内に逃げ込みやすくするため、リアドアが大きく開くように改造された点くらいだろう。

そうしたリムジンの多くはヴァンデンプラの手でボディが製造されたが、DH2-12785のシャシーナンバーを持つこのA135プリンセスには、ノーザンプトンのアーサー・マリナーの手で霊柩車ボディが架装された。これは、同じノーザンプトンで葬儀社を営むアン・ボナハム&サンの注文に応じたものであることは、まず間違いがない。実際のところ、この会社はいまも同じ住所で営業を続けている。

いっぽうのマリナーもまた、ベントレーのビスポーク部門として生き残っている。アーサー・マリナーは、1760年からコーチビルディングを手がけてきたマリナー家の三代目。チジックに本拠を構えるH.J.マリナーは、アーサーのいとこにあたるヘンリー・ジャーヴィス・マリナーが、本家から"のれん分け"して誕生したものである。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:David Lillywhite Photography:Stephen Kim

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事