メルセデス・ベンツ300SLガルウィング|あるオーナーが語る「夢のような名車」と歩んだ40年

1955年メルセデス・ベンツ300SL ガルウィング(Photography:James Lipman)



私と300SL
その外観は今日でも見る者の目を捉えて離さない。燃料噴射付き直列6気筒エンジンが4000rpmを超えたときの咆哮は、まさに胸躍るものだ。現代の基準でもスリリングなパフォーマンスを発揮するが、それも驚くには当たらない。ロードゴーイングバージョンの300SLは、1952年のW194ワークスカーをベースにしており、公道用に"おとなしく"なってはいるものの、パワーではレーシングバージョンを上回るからだ。

300SLのエンジンは1台残らずテストベンチ上で24時間の試験を受けた。そのうち6時間は全負荷試験だ。その後、分解、チェック、リビルドされ、再び8時間のベンチテストを受ける。この過程を終えて、適切な燃料とオイル、そして空気があれば、6100rpmで240bhpの最高出力をほぼ永久に発揮するというお墨付きを与えられた。

実際に乗ってみると、本当にいつまでも走り続けるのではないかと感じる車だ。私は1970年代を通してガルウィングを通勤に使ったが、特にヨーロッパ大陸で本格的な長距離ドライブに使うと、リアアクスルのギア比が高いので、解き放たれたように伸び伸びと走った。

昔の長距離ドライブにはこんな思い出もある。まだユーロ導入前のフランスで、給油しようと郊外のガソリンスタンドに立ち寄ったときのことだ。私が片言のフランス語で「100フラン分」と頼むと、あまりに法外な注文に、スタンドのおばあさんは首を振り、イギリスの経済共同体加盟を拒否したド・ゴールのように断固とした調子で「ノン」を繰り返した。私はため息をつくと、仕方なく「満タンお願いします」と頼んだが、内心では手持ちの金で足りるか心配だった。勝利に気をよくして給油を始めたおばあさんだったが、間もなく驚きの表情に変わった。なにしろガルウィングの燃料タンクは127リッターだから、満タンになる前に古い給油機の桁数が足りなくなってしまったのだ。おばあさんは早口で何事かまくしたてたが、おそらく最初の依頼通りにしなかったことを謝っていたのだろう。

この一件は高くついたが、走り出すとすぐに頭の中から消え去った。本来の生息地に戻ったガルウィングが、私の五感に襲いかかってきたからだ。あまりに圧倒的で素晴らしい感覚に、ステアリングを握ったら最後、他のことなど考えてはいられなかった。

しかし、ガルウィングのオーナーを待ちかまえているのは、車を惚れ惚れと眺めたりグランドツーリングを楽しんだりといったよいことばかりではない。現在の高騰を嘆いている人には慰めになるだろうか。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Delwyn Mallett 

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