もっとも鮮烈な印象を受けたヴォアチュレット「アミルカーC6」|JACK Yamaguchi's AUTO SPEAK Vol.9

スポーツレーシングカー、1927年アミルカーC6との最初の出会いは、2011年イギリスでレストア後、日本で仕上げ中、エンジン始動の場であった。(Photos:Jack YAMAGUCHI)



C6 "Start Your Engine!"に立ち会い
2011年10月1日土曜日(先勝)気温25度の快適な晴天。私の畏敬す人と彼の車、そして卓越した守護メカニックに会う。川本信彦元本田技研社長、1927年アミルカー"C6"、そして石川達(とおる)オフィチーナイシカワ工房主である。

告白するが、私のアミルカーC6の知識は、アミルカー社がワークスカーCOで優れた戦績を上げ、その設計を基に顧客向けに限定数製作した『カスタマー』・レーシングスポーツカーという程度であった。事実、要約するとその通りなのだ。

6気筒ワークスカーCOのレース成功は、アミルカー社の今風にいうブランドイメージ急上昇をもたらせた。顧客は、ワークスカーと同型の6気筒スポーツレーシングカーを切望した。量販は望めないが、経営陣は開発と少数製作を決定する。

当時の仕事は早かった。1925年のパリ・サロンには、C6シャシーと初戦ヒルクライム優勝COが展示された。C6の発売は1927年になる。50〜60台製作といわれるが、最終的には不況もあり、正確な台数は不明である。

ワークスCOとの大きな差はエンジン構造である。ワークスはシリンダーヘッドとブロックが鋳鉄一体構造で、バブル組み付けがたいへんな難作業であった。鋼材から削り出したクランンクシャフトは、7ベアリング支持で、両端がボールベアリング、中の5個が分割ケージのローラーベアリングであった。2本のカムシャフトは小さなフィンガーアムを介してバルブ駆動する。吸排バルブ挟角は100度と広い。エンジン外観もそのように見える。カムシャフト駆動はエンジン後端の平ギアトレイン、潤滑はドライサンプ、ルーツ型スーパーチャージャー、ソレックス気化器を用いた。ワークスの燃料はアルコールを主成分とする混合燃料であった。

一方、顧客向けC6は、鋳鉄別体シリンダーヘッドとブロック、鋼材削り出しクランクシャフトは7ベアリング支持だが、両端がボールベアリング、センター5個はホワイトメタルである。DOHCは平ギアトレイン駆動、バルブ直打式で、半球形燃焼室、吸排バルブ間角度は76度である。ドライサンプ、ルーツ型スーパーチャー、ソレックス気化器はCOと同タイプ。許容最高回転は5700〜6000rpmとされる。

トランスミッションは乾式ドライプレート1枚クラッチ、4速ギアボックスで、基本的にはCO同型だ。

C6構造は概略にとどめる。梯子型フレーム、前1/4リーフスプリング支持リジッドアクスル、後1/4カンティレバー・リーフスプリング支持リジッドアクスル、4輪ドラムブレーキなどは、ワークスCO継承している。ちなみに、アミルカーは早くから4輪ブレーキを採用していた。

ボデイは、鋼材骨格に取り付けた鋼板製2席オープンで、ドアやソフトトップなどの便利快適装備は皆無である。サイクルウイング(フェンダー)とパッセンジャー横を走る排気管上カバーは標準ではなく、別製したもの。

2011年に石川さんの工房で見た川本さんのC6は、レストアされイギリスから到着した直後で、まだ公道走行のための登録はされていなかった。ホイール/ブレーキドラムを外し、ジャッキ上で始動を待っていた。これが私の生まれる7年前に製作されたスポーツレーシングカーであるということに驚嘆した。機械と機能美は衝撃的で、設計、開発、製作した先人たちに深い敬意を抱いた。

アミルカー・ワークス活動終了後の1929年から、ヨーロッパ、イギリスのヴォアテュレット・レースにおいて、顧客達の大活躍が展開された。

川本さんは、1996年グッドウッド・フェスティヴァル・オフ・スピードからの帰途、ホンダ英国工場が所在するスウインドンにあるアシュレー・ケインズ・ヴィンテージ・レストレーション(AKVR)に立ち寄った。「キース(ボウリー、同社創設者)のC6に試乗、これだ!となった」と記している。彼がC6に惚れ込んだ理由について、石川さんは、「芯からの技術者である川本さんは、アミルカーの基本設計、技術の真正を見抜かれたのでしょう」と推察する。

元モーターサイクルGP、F1ワールドチャンピオン、元F1チームオーナーのジョン・サーティースも、川本さんのためにC6について助言とエクスパートの紹介の労をとった。もうひとりのキーパーソンとなったボブ・グレイヴスは、通信、電子機器で財を成した実業家で、2台のC6を所有し、全部品の図面を起こし、レストアのために製作能力を有していた。彼の1台は、よくいう「現在の技術で再現したらどうなるだろう…」をやりすぎ、まったく違う最新技術を入れた。異様に速かったが、英ヴィンテージカークラブ(VSCC)のレース出場資格を失ったという。ヴィンテージとは、オーセンティシティ(ホンモノ)を重視するのだ。

文、写真:山口京一 Words and Photos:Jack YAMAGUCHI

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