なぜ半分だけレストア? 「美術品」や「遺跡発掘品」として扱われたアルファロメオの奇跡の保存状態

完成後のSZザガート。(Photography:Archivio Zagato-Carrstudio)



さらに速くするための選択肢
SZコーダ・トンダをさらに速くしようと試行するなか、エリオ・ザガートとエルコーレ・スパーダは、わずか1.3リッターのこのエンジンからさらに高いスピードを引き出すためには、ボディ形状を考える必要があるということに気付いた。ザガートには、かつてスターリング・モス卿が駆ったマセラティ450Sのフロントを延長した経験があった。そこでまずはこの経験を生かし、シャシーはそのままにして、軽合金外皮の形状を変えジュリエッタSZのノーズを約20cm長くしてみた。テールにはヴニバルト・カム教授の理論を用いることにし、チューブラーシャシーを延長して、そこにスパッと切り落としたロングテール・ボディを架装した。こうして、ミラノとベルガモ間を走るアウトストラーダで、高速テストランを実行した。

エルコーレ・スパーダは当時を思い出し、こう語っている。

「プロセスはベーシックなものでしたが、効果は抜群でした。私たちは距離道標とストップウォッチを使い、区間速度の通過所要時間を計測し、レヴカウンターの数値も記録しました。そしてテストが終わると会社に戻り、新しい軽合金ボディパネルの形状を修正、またアウトストラーダを走るというプロセスを再び繰り返したのです。200km/hに到達するという、プロダクションモデルとしては素晴らしい結果を得ました。しかし、さらにテストを行っていくうちに、1kmを16秒で走るという速度を計測したときに、私たちは目を疑いました。これは、1.3リッターのエンジンから、220km/h以上を叩き出したということですからね。レヴカウンターはエリオが普段レース中に見る数字よりもはるかに高い値を示していましたから、彼自身でその結果を確認したほどです」

もうひとりの重要人物であったエリオ・ザガートは、このテールの進化について、美的観点からその当時を振り返っている。

「テールをだんだん長くしていき垂直に切れば、速度はますます上がった。だが私たちは見た目を考慮してある程度のところでストップすることに決めた。これ以上長くしていれば、この美しいバランスは生まれなかっただろう」


編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Massimo Delbo Photography:Archivio Zagato-Carrstudio

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