なぜアルファロメオの「デイトナ」はル・マンでトップ3独占という快挙を成し遂げられたのか?

取材協力:Fiskens(www.fiskens.com)からティーポ33/2を借用した。またアスカリ・レース・リゾート(www.ascari.net)での撮影をアレンジしていただいた。(Photography:Paul Harmer)



極めつけにシャープなハンドリング
"デイトナ"の愛称は、1968年デイトナ24時間の2.0リッター・クラスで1-2フィニッシュを果たしたことにちなんで与えられたもの。この年、ティーポ33は合計で21の栄冠を勝ち取っている。うち15勝が総合優勝で、クラスウィンは6回を数えた。なかでも、もっとも重要なのはル・マン24時間の2.0リッター・クラスで表彰台を独占したことだろう。この結果、33/2は耐久レースにおける圧倒的な強さでその名を知られるようなる。しかし、南スペインに建つアスカリ・レースリゾートを数周して私が最初に感じ取った印象は、それとは正反対で、まるでスプリントレースを戦うために生まれたレーシングカートのように思われたのである。

実に10000rpmまで回るV8エンジンは、少なくとも7000rpm以上を保たないとぎこちない反応を示す。このためドグクラッチ式の6速ギアボックスを絶え間なく操らなければならず、結果的にドライバーを疲弊させる。もっとも、この範囲内にエンジン回転数を保つことができれば、滑らかなボディの空気抵抗が極端に小さいこともあって、アスカリ随一のロングストレートでも息の長い加速を満喫することができる。

エンジンパワーが270bhpでは物足りないと思われるかもしれないが、車重は580kgしかなく、しかも運転すればその半分ほどしかないような軽快感が味わえる。コーナーの出口だけでなく入り口でもドリフトの体勢をとれるセットアップは、耐久レース向きとは決して呼べないものの、恐ろしいほど痛快であるのは確かだ。短いホイールベースと狭いトレッドのおかげでハンドリングは極めてレスポンスが良好で、ブレーキを用いて軽いピッチングを起こし、適切なスロットル操作でリアに揺さぶりをかければ、直ちにフロントイン・リアアウトの姿勢を示し、フルロックのカウンターステアをあてたままコーナーを駆け抜けていくこともできる。

あまり深く曲がり込んでいない中速ならびに高速コーナーであれば、このコーナリング・スタイルは極めて有効で、グラスファイバー製ボディは軽快かつ敏捷このうえない反応を示す。しかし、タイトなヘアピンコーナーやテールを振り子のように左右に切り返す必要のあるシケインでは、大きなステアリング入力が走行抵抗となって車速の低下を招く。おまけに過大なロールを引き起こすと、その代償としてコーナーなかほどで急激なオーバーステアに転じるおそれもある。ロールを押さえ込むためにアンチロールバーを固めるセッティングも試したが、期待はずれな結果を招くばかりだった。後日、この車とともにモンツァのレースに出場した折、伝説的なワークスドライバーのナンニ・ギャリに直接、この疑問を投げかけてみたところ、誰ひとりとしてその問題を解決できた者はなく、シャシーが根本的に持つ性格と推測されるので、それにあらがうことなく、うまく折り合いをつけたほうがいいとのアドバイスを得た。

私もまったく同感である。90度コーナーがふたつ組み合わさったレズモ、そして大きく回り込むパラボリカといったコーナーでは、車が水平に近い姿勢を好むことを私は学んだ。そこで、私は自分の好みよりも少し早く、まだ車が直進状態にあるうちに減速を行うことにした。そしてやや早めにブレーキをリリースし、ノーズダイブの姿勢を少し緩めてからターンインを開始する。すると、ごく微妙な違いでしかないものの、より正確に、そして我慢強く操作することで4輪にかかる荷重が平均化され、より安定した姿勢でコーナーをクリアできるのである。このようなドライビングではコーナーの進入速度が低くなるが、スロットルペダルを開くタイミングを早くできるので、より高いスピードでコーナーを脱出でき、結果的に区間タイムはさほど変わらないことになる。あわせて、コーナーの立ち上がりでエンジン回転数を素早くパワーバンドに復帰させられることも考え合わせれば、決して悪い相談とはいえないだろう。

サーキットでのティーポ33/2は矢のように鋭いレスポンスを示した。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Sam Hancock Photography:Paul Harmer

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