なぜアルファロメオの「デイトナ」はル・マンでトップ3独占という快挙を成し遂げられたのか?

取材協力:Fiskens(www.fiskens.com)からティーポ33/2を借用した。またアスカリ・レース・リゾート(www.ascari.net)での撮影をアレンジしていただいた。(Photography:Paul Harmer)



革新的なフレーム構造
このプロジェクトを率いたのは、伝説的レーシングカーデザイナーのカルロ・キティ。もともとアルファで名声を馳せたキティは、やがてフェラーリに移籍して、ティーポ156シャークノーズの開発を統括し、フィル・ヒルをワールドチャンピオンに押し上げたことで知られる。その後、古巣に舞い戻ると、アルファのワークスチームであるアウトデルタのトップに就任。オラツィオ・サッタ・プリーガやジュゼッペ・ブッソといった設計者とともに革新的で航空機の技術を応用したシャシーを生み出し、ティーポ33に輝かしい成功の数々をもたらす礎を作り上げたのである。

シャシーの骨格を構成しているのは、3本の大きなアルミ製チューブで作られた非対称形のH型フレームである。太さおよそ8インチ(約20cm)、長さ5フィート(約150cm)ほどにもなる2本のサイドメンバーは車の両脇に沿う形でドアの下側を前後に伸びるいっぽう、これらと直角をなすようにしてリベット留めされた3本目のチューブは、シートの後方かつ、ミドシップされたエンジンの前方に配置された。その内側はゴムで覆われており、燃料タンクの役目も兼ねている。

このあまりにも大きなアルミフレームがボディの両サイドを走っているため、運転席も助手席も車体の中央寄りにレイアウトすることを余儀なくされた。この結果、乗員とサイドウィンドウの間には大きなスペースが生まれ、ルーフは極端に低いにもかかわらずキャビンは明るく、開放感さえ漂わせる空間となった。こうして完成した、極端に薄く平たい形状のシャシーは当時のコンセプトカーデザイナーから熱い視線を集めることとなり、自動車史に名を残すエキサイティングなスタイリングを生み出す基盤ともなった。ピニンファリーナ33スペチアーレ・プロトタイプとそのロードスター版、ジウジアーロのイグアナ、そしてベルトーネのゴージャス極まりないカラボなどは、いずれもこの"AR75033"シャシーをベースとして作られた習作である。

もちろんキティもこの特徴をフルに活用し、全高を徹底的に低くした。おかげで、たとえ私が地面に腰を下ろしてドライビングポジションをとったとしても、頭がルーフから飛び出すような位置関係となってしまった。ただし、これから試乗するシャシーナンバー019は"デイトナ・クーペ"と呼ばれるオープントップで、しかもメインテナンスを担当するティム・サムウェイズと彼のチームがシートフレームやペダルをモディファイしてくれたため、身長6フィート2インチ(約188cm)の私でも快適かつ安全な体勢をとることができた。

身長188cmのハンコックが運転席に腰掛けると、彼の頭はルーフの上に飛び出た。オープンコクピットでなければ、こうはいかなかっただろう。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Sam Hancock Photography:Paul Harmer

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