ミウラの生誕50年を祝うために集結した「歴史上最もゴージャスな3台」とは?

Photography:Matthew Howell



そして、私たちが神聖な"ホーム"から出発したのは、通りがかりの従業員たちが望む写真とサイン攻めにあうバルボーニが解放されてからになった。私はP400の助手席に乗り込むと、車内の様子だけでなく、フレッシュなレザーとガソリンの"芳香"を楽しんだ。私たちは3台の低いマシンの集団となり、アクセレーターを全開にした。湿った朝の光に塗装が玉虫色に光り、エグゾーストノートが平原に響き渡ると、モデナ通りの工業地域から解放される。右折し、地平線へ突き抜ける別の道へ進む。ここでテストドライブしたバルボーニから後に聞いて分かったことだが、最近、ここは当時より車がかなり混み合っているそうだ。

前方には曲率の大きなコーナーが続き、溝にはまらないように、外側にはサーキットのようなガードレールが設置されている。バルボーニは「僕らはここを180(km/h)で回ったものさ」と笑って肩をすくめた。

しばらくして小さな空き地に入った。隣には農家の残骸がある。昔はもっと居心地がよく、ローカルのテストドライバーたちがメモを見比べた静かな場所だった。こここそが、バルボーニが、デ・トマゾやマセラティのテストドライバー仲間たちと会っていた場所だ。だがフェラーリのドライバーはいなかったという。バルボーニ「彼らはこんな山の中でテストしていたのさ」と言いながら笑って肩をすくめた。ライバル関係はあったのだろうか。「いいや、僕たちは皆、自分の仕事を楽しんでいたから。ただ、僕は一番先に出発して先頭を走った。他の皆は追いつけなかったよ。なぜって、僕はランボルギーニを運転していたんだからね」

我々は再び走り始め、今度はSVが先頭に立ち、P400がしんがりを務め、私はSの助手席に移った。Sは一層の風格が感じられ、すべてが古くオリジナルのままだが美しく保たれている。センターパネルがコクピット側に突き出してオイルや水温等の情報を伝え、ドライバーの前に配された2個のシンプルなメーターがエンジン回転と速度を表示し続ける。シートは着座位置が低く、バックレストは倒れ気味だ。頭の後ろに置かれたエンジンがスピードを増すごとに激しくピッチを上げ、深いバリトンから始まるサウンドで楽しませてくれる。驚いたのは、サスペンションが柔らかいことだ。路面からの衝撃を和らげてくれるが、大きな穴に差し掛かると、そのトラベルの短さが露呈する。

バルボーニはミウラの中では実際にはSが一番パワフルであると語ってくれたが、これには驚かされた。私はSVが一番だろうといつも思っていたのだ。バルボーニがよく使っていた、当時と同じガソリンスタンドに3台で飛び込み、タンクをフルに満たしつつ、私たちも素早くエスプレッソを飲み干した。バルボーニは、SVのフレアが付いたホイールアーチは、よりワイドトレッドのタイヤを収めるためのものだと教えてくれた。また、エンジンはすべて4リッターのV12だが、フルパワーよりもトルク重視でチューンされており、サーキットより道路上の方が最大限に性能を発揮できるとも言った。SVの"Spinto Veloce"という意味が相応しく感じられる。

P400とP400Sで有名になった特徴的なヘッドライトの睫(まつげ)は、SVでは省略されたと思っていたが、SVでも初期ロットには付けられたそうだ。この睫にはコストが掛かり、装着も容易ではないという。バルボーニによると、「フェルッチオ・ランボルギーニは、『これはもうやめよう』とひとこと言った。ただ、彼は最初の1台を所有していたので、彼のSVには睫が付いていた」という。

他に目立つ変更はないがSVは重量が増えているので、その理由を聞いてみた。

「初期の生産分はできるだけ軽く造られたが、それでは強度が不足していた。ボディは0.8mm厚の鋼板で造られていたので、構造自体がしなることもあった(彼は1965年トリノ・ショーで展示された剥き出しボディのことを言っている)。SVでは1.2mm厚に変更されている。重くはなったが、もっと強度が増した」という。この様にしてミウラは進化してきたのだ。

私は次にバルボーニ本人がドライブするSVに乗った。今回も嗅覚が刺激されたが、こちらは歴史の匂いがした。バルボーニがステアリングを握った瞬間、私はホッとした。彼からはプロフェッショナル・ドライバーとしての特別な自信がにじみ出ており、彼のすべての挙動は積極的だがスムーズだった。もちろん彼は活発な印象だが、自慢はせず、また空間認識能力が非常に優れている。車を素早く動かす余裕があれば、その余裕を超越したレベルで速く走らせる。彼はまるでエンジンのサウンドを聴きながら酒を飲んでいるかのようにその音色を堪能し、笑みをたたえながら「とても美しいサウンドだ。この車をテストしていた頃を思い出すよ。70年代前半では、SVは私の最初の車だった」と口にした。

彼は長い間このV12の専門家だった。「ミウラは車によってエグゾーストノートは違うし、フィーリングも違う。ほかより20馬力ほど多く出ているものがあるかもしれない。工場の作業員たちに聞いてみたが、彼らにもその理由は分からなかった。手作業で組み立てられたエンジンは、1基ずつ違う反応を見せるが、どれも許容範囲内で完全に近い状態だ。そして、それを電子的にコントロールする管理システムはないんだ」

それは正に彼らが言うところの「特別な魂」だ。



編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.)原文翻訳:東屋 彦丸 Translation:Hicomaru AZUMAYAWords:Glen Waddington Additional Reporting:Massimo Delb.

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