ミウラの生誕50年を祝うために集結した「歴史上最もゴージャスな3台」とは?

Photography:Matthew Howell

3台のミウラ
今回、私たちは3台のミウラを集めた。まずは、1968年製のオリジナルタイプであるP400だ。"P"は"Posteriore"(伊語で後方の意)で、エンジンがキャビンの後方にあることを示し、"400"は4リッターのエンジンを指す。そして69年に登場した、よりパワフルな改良版のP400 S。さらに、ウォーレスが仕立てたレース用のイオタを除けば、究極のロードゴーイング・ミウラである1971年のP400 SVだ。"SV"とは"Spinto Veloce"で、スピード重視のチューニング仕様といった意味だ。これらが3台のミウラの正体だが、その7年間に革新的な改良が行われている。

モデナ通りは両サイドに工業ビルが続いているが、その間には遠くに農地が覗いている。何マイルも平坦に伸びたこの道には、たまに小さな街や村が現れ、納屋を備えた大きくて四角い農家の多くが荒れ果ている。これがこの地域特有の風景だ。農地を切断しながら続くこの道に沿って、ミウラが生産ラインを出た際にバルボーニがテストドライブした場所が点在する。

故障はなかったのだろうか。

「故障はまったくありませんでした。たまに、ちょっとした不良はありましたが、通常は直せるものでしたよ。まあ、そのためにテストドライブですし、私たちが見つけておけば、お客さんに迷惑を掛けることもないです。試作車をテストしているわけではないですから。ちなみに私は、後にカウンタックのプロトタイプをテストしていますがね。」

バルボーニはこの一帯の道を熟知していた。そこでテストしたミウラについても同様だ。ミウラはとにかく綺麗だ。私が繰り返すまでもないが、「ミウラはこれまで造られたすべて車のなかで最も美しい」と信じている人は数え切れないほどいるだろう。しかも、単に美しいだけではない。そのスタイリングの断面図を見れば、ガンディーニがいかに綿密にその構造について理解し、プレーンでモダニズムに満ちたそのスタイリングを描いたかがわかる。それは最高の出来映えだ。不要な"ひだ"や装飾はなく、だが遊び心に満ちた実用部分や融合部分(ドアハンドルにつながるドアのトレーリングエッジ付近など)に加え、ヘッドライト周りの有名な"睫"が痛快だ。

このP400は生産ラインから123台目に出た車で、2010年に 7年以上に渡るレストアを終え、2013年に現オーナーであるスイスのマンフレッド・シュヴェリが購入した。内装はブラックのままだが、ラインオフ時にはホワイトだったボディは、現在では目映いピリオド様式のオレンジ色になっている。

P400S(363台目)は、イタリアのランボルギーニ・クラブの会長であるアンドレア・ニコレットのところに届けられ、当初はイタリア最大のガラスメーカーであるボルミオリ・ロッコ社(パルマ)の名義で登録された。これは噂だが、主に1967年のミス・パルマであるモデル兼女優のタマラ・バローニや、同社創業者の息子であるピエールルイジ・ボルミオリが運転したと言われている。現オーナーは2006年に購入したが、これまで無事故で過ごし、レストアはされていない。まったく汚れていないだけでなく、すべてのパネルやほとんどの塗装部に加えてインテリアもオリジナルのままで、10年前にメカニズムのオーバーホール(ガスケット、燃料パイプ、ピストンリングなどを交換)が施されただけだ。新車時からの走行距離は 4万7000kmにすぎない。

SV(645台目)は、ゴールドとロッソ・コルサのオリジナルカラーで、それなりに使い込まれたコンディションだ。この車もレストアされておらず、1971年に新車としてシチリアのロー・タルコが購入しているが、彼はフェルッチオ・ランボルギーニの個人的な友人で、工場で本人から直接納車された。工場の記録によると、リミテッド・スリップ・デフが装備されたミウラSVは10台以下しか存在しないそうだが、このシャシーナンバー4904はその1台だ。熱心なドライバーとして知られたロー・タルコは、このミウラでシチリアの曲がりくねった道を 3万5000kmも楽しんだ。その後1981年からこのミウラP400SVは行方不明となったものの、2011年に現オーナーのアンドレイ・フリードマンが購入している。

ヴァレンティーノ・バルボーニは、このSV"4904"のことをよく知っており、またロー・タルコとの会話も覚えていた。この車がトラックに載せられてシチリアから出る際にも彼はそこにいたのだ。"4904"が第二の人生を迎えるにあたって、工場の職人達を集めて究極のチームが作られた。大多数のSVにはフルレストアが施されていることを考慮して、フリードマンはこのボディをそのまま保存することにし、徹底的に清掃や手入れを行うに留め、すべての塗装は完全にオリジナルのままで残した。しかも、エンジンもエアフィルターからエグゾーストまでもが完全にオリジナルのままだ。オリジナルを守っているが、もちろんごく正常に運転できる。

信じがたいことに、ロー・タルコはこの車に付属していた書類と工具、スペアキーのセットや当時の引渡し証明書も含めてすべて保管していた。このとき、時空を飛び越えてきたような"シチリアのミウラ"は、FIVA(国際的なヒストリックカー団体)の検査結果でA2グレードを得ており、それに続き2013年のペブルビーチ・コンクール・デレガンスのポストワー・プリザヴェーション・クラスで3位入賞を果たしている。

「ヴァレンティーノが『このエンジンには特別な魂があるよ』と私に言ってくれた」と、フリードマンは自分の車について笑いながら語った。この言葉はこのあと数日間に何度も聞くことになる。


編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.)原文翻訳:東屋 彦丸 Translation:Hicomaru AZUMAYAWords:Glen Waddington Additional Reporting:Massimo Delb.

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