ポール・スミスが語る「ローバー社とのコラボ」と「最愛のクラシック車との出合い」



「ひねりがなくっちゃあ」
しかしサー・ポールの車への興味はこれらに留まっていた訳ではない。1990年代終わりにはローバー社とコラボレーションして、ミニの生誕40周年を記念するポール・スミスエディションを発表した。1997年の東京モーターショーに展示するため製作されたポール・スミスのアイコンのひとつであるカラフルなマルチストライプを入れたプロトタイプと、限定のプロダクションモデルのポール・スミスブルーの車は未だに彼の手元にある。オールドイングリッシュホワイト、ブラック、ポール・スミスブルーの3色が設定されたポール・スミスエディションだが、このモデルだけのために開発されたのはその名が示すとおりポール・スミスブルーだけだ。その設定に関してはこんな都市伝説があるが、どうやらこれは事実だったらしい。つまり、色調を決定したとき、彼は自分のシャツの端っこを切り取って渡していった。「ほら、こんな色だよ、OK?」と。一方ストライプの方はまったく違うアプローチだった。

「今ではほとんどの人はストライプパターンをコンピューターで作るが、最初私が仕事を始めた当時、ストライプシャツを作ろうと思ったら白いカード紙に色糸を巻いたサンプルを作って織り手に見せるしかなかった。その後に同じものを紡績工場に送るんだ。ポール・スミスでは我々は現在もこのやり方でやっているので、ミニのために色糸付きカードを作った時も違和感はまったくなかった」

今年初め、サー・ポールはもう一台、ブリティッシュクラシックをワンオフでプロデュースした。純粋に実用車としてすべての英国人に愛されたブリティッシュアイコン、ランドローバー・ディフェンダー90。サー・ポールはすでに同車を何台かを所有してきていたから車のキャラクターは熟知していた。エクステリアカラーのアプローチは、ミニの場合とはまったく異なる。「ランドローバーはもともと農民の仕事のためにつくられた車で、もしドアやフェンダーをぶつけたり壊したりした場合、彼らはすぐにスクラップヤードに行って解体部品を探し色合わせもせずに取り付けたものだ」

車全体を覆うモザイクは27色におよび、カラーイメージは"ブリティッシュカントリーサイド"と、"ロイヤルアーミー"だ。彼のひねりのきいたユーモアは今回は室内にある。センターコンソールボックスを開けると、使い込まれた車では必ず見かける小銭やキーホルダー等がそこにある。だが、これはコンソールボックスの底に貼られた写真なのだ。もう少し周りを見回せば、助手席側のフロントウィンドウに蜂がとまっているのも発見できるだろう。サー・ポールも言うとおり、描かれた蜂は、ちょっとしたおちゃめだ。ちょうどミニのブルーのグローブボックスを開けると現れる明るいシトラスグリーンの内張や、ブリストル405の画像を印刷したポール・スミスバッグのオーバーナイトトートのように。しかしそれこそが彼の彼たる所以である。驚き、気まぐれ、ひねり。彼はモノを楽しくする。ちょっとしたユーモアと想像力を設計に持ち込まずにいたら、自動車のようなものでさえ、おそろしく退屈なものになってしまう。 

だからこそ、彼の"マルチストライプミニ"はこの夏、例のRAC王立自動車クラブのレセプションルームデビューを果たしたのだ。このディフェンダーもそうなるだろう。サー・ポール・スミスは、実際のところ彼自身が考えているよりは、ずっと深く車を知っている。


ロンドンのポールモールにあるRAC王立自動車クラブの有名なレセプションルームに飾られた、ポール・スミスのマルチストライプミニはセンセーションを巻き起こした

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