史上最も美しい車のひとつ「アストンマーティンDB4GTザガート」が真のサラブレッドである理由

アストンマーティンDB4GT ザガート (Photography:Paul Harmer)



DB4GTザガートを堪能する
ザガートは生産された19台のうち、11台が右ハンドルだ。左ハンドルのこの"0178"は、レースで走らせるにはもったいない車である。驚くほど軽いアルミニウムのボディパネルにもたれかかることのないよう注意しながらパースペックス(アクリル樹脂)ウィンドウを備えた軽量のアルミニウム製ドアを開け、少し色褪せたコノリーレザーから漂うアロマを楽しむ。ボタンが付いたオープンバックのシートはこじんまりとして、背もたれが低くDB4のディテールほど贅沢ではないが、快適だ。美しい3本スポークのウッドリム・ステアリングホイールの合間から、スミス製メーターが覗き、ブラックに塗装されたダッシュボードのインストルメントパネルの中でその存在感を際立たせている。前進4段のギアシフトレバーのデリケートな印象と対照的に、フロアペダルは大振りだ。

軽量のドアが"メルセデスよりも小さな音"をたてて閉まると、アルミニウムエッジが施されたパースペックス製ウィンドウがシール部分にしっかり接合されていないことに気付く。イグニッションキーを回し、スロットルペダルを数回踏みこみ、3基のウェバーへ燃料を送り、スターターがエンジンを6回転させると凄まじい音をたてて目覚めた。わずかにスロットルを開くと、チョークチューブの流れがよくなり、エンジンがアイドリング状態に落ち着く。その音はエンジン同様に大きく重いが、洗練されたサウンドゆえに、耐えがたいほど煩いとは感じない。

クラッチペダルは特に重いわけではないが、踏み代は大きい。1速にギアを入れる。ハイギアリングのため発進時には回転を幾分上げてやる必要がある。ウェバーがポンポンとかすかな音をたてるが、一旦エアを吸い込むとスムーズになりパワーを発揮し始める。ギアシフトは滑らかで、各ギアの変速比は接近している。スロットルペダルを踏み込むと、曲がりくねりタイトな山道をアストンが果敢に攻める。ラック・ピニオンのステアリングはシャープで、驚くほどのエネルギーとレスポンスのよさを感じさせる。

オリジナルの状態を非常によく保っているこの車は、オリジナル仕様の6×16インチのエイヴォン・ターボスピードタイヤを履いており、ステアリングに軽さと正確性をもたらしている。少し速度を上げると、そのソフトでしなやかな走りを実感する。残念なことにリアサスペンションのアームストロング製レバーアームダンパーは能力不足の感があり、車重と頑強とはいえないシャシーと相まって、スピードを上げるにつれザガートが揺れ出す。

これがアストンのライバル、フェラーリが勝っている点だ。フェラーリSWBは実に軽量で、はるかに優れた剛性を備えている。また、シンプルなリジッド・リアアクスルを採用しながら、コニ製のテレスコピックダンパー、半楕円リーフスプリング、そして各サイドに2本のトルクアームによって、より優れた操作性を提供する。フェラーリのステアリング・ギアボックスはラック・ピニオンではないがアストンよりも正確で、それゆえコーナリングも素早く抜けることができる。

しかし、この急勾配でうねるような山道では、ザガートのエンジン、特に中回転域で発揮される大きなトルクは、この古くさいハンドリングを補って余りある。ガーリング製のディスクブレーキにはサーボアシストの備えがなく、ペダルの遊びも多いため、ある程度の慎重さは必要であるものの、アンダーステア傾向が下り坂でのコーナリングを容易にする。

ザガートは驚異的なスピードを発揮する。100km/hを6.1秒でカバーし、このギアリングで240km/hまで速度を上げることができる。特性を確認し、快適なゾーンを見つけるのにさほど時間はかからない。このゾーンを見つければ、DB4GTは大きくフレンドリーなラブラドールのような車だ。

シンプルな意匠の車内に座りスロットルペダルを踏み込むと、待ってましたとばかりにエンジンが反応する。2本のテールパイプから響くエグゾーストノートは、最高に上品なサウンドだ。大きなエンジンがレッドラインに向かって一気に回転数を上げ、ディープなうなりとともに反応する。遊びの多いブレーキペダルを早めに踏み込み、クリッピングポイントの手前で素早くターンし細いタイヤをわずかに水平方向へ滑らせ、スロットルを開き、パワースライドさせる。ソフトなサスペンションにより車両が傾き、フロントがクリップエンドを滑り抜ける。もしコーナリングスピードの制御が上手くいかなかった場合は、スロットルペダルを再び踏み込めばパワフルなエンジンが次のストレートで速度を素早く上げる。

山道を抜け、"Bロード"へ入り速度を上げるとDB4GTザガートの本領が発揮される。セクシーなダブルバブル・ボンネット越しの景色と、バックミラーに映るどっしりとしたリア。細く美しいステアリングホイールを通して緩やかに走るザガートが唸りを上げる。ステアリングホイールを握る力をわすかに緩め、クラシックなタイヤに車を委ねながらそのパワフルで正確なレスポンスを楽しむ。

フェラーリSWBが公道走行用にチューニングされたレーシングカーであるのに対し、アストンマーティンDB4GTザガートは、もともとロードカーをベースとしたレーシングカーだと批判する人もいる。しかしこれは、的外れだ。高速走行において、アストンは卓越したパフォーマンスを発揮する。うっとりとするほど優美な外観と、壮大なサウンド。そして従順なレスポンス。最高のサーキットレーサーとは言えないかもしれないが、それがどうだというのだろう。この車はドライバーを最高の気分にさせてくれる真のサラブレッドだ。



1961年製アストンマーティン DB4GT ザガート
エンジン:3749cc、軽合金製直列6気筒、DOHC、ウェバー45DCOE4キャブレター×3基  
最高出力:314bhp/6000rpm 最大トルク:38.45kgm/5400rpm 
ステアリング:ラック・ピニオン 
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、
スタビライザーサスペンション

サスペンション(後):リジッドアクスル、トレーリングアーム、コイルスプリング、ワッツリンク、
レバーアームダンパー

ブレーキ:ディスク(前後)、ノンサーボ 車重:1209kg  
性能:最高速度 152mph (約245km/h) 0-100km/h 6.1秒


Thanks to Geneva-based broker Kidston SA, www.kidston.com, for arranging the drive.

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Robert Coucher 

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