憧れのボンドカー9選|『007/ゴールドフィンガー』から『007/慰めの報酬』まで

ボンドカー大全



アストンマーティンDBS
『女王陛下の007』/1969



「急ぐことはない。時間はいくらでもあるから」、『女王陛下の007』では悲劇的なラストシーンでボンドがつぶやくこのセリフが印象的だった。だが、二人目のジェームズ・ボンドにチャンスは二度と巡ってこなかった。いま思えば、ちょっと信じられないことだ。

様々に物議を醸した作品ではあるが、『女王陛下の007』は、ボンド映画の転機となる可能性も秘めていた。だが、ショーン・コネリーの後任としてジョージ・レーゼンビーが抜擢され、1969年のクリスマスに合わせて公開されると、その評価は二分した。

心機一転の007には、新しいアストンマーティンが与えられた。ウィリアム・タウンズがデザインしたDBSだ。本作は興行的には成功を収め、その作風にDBSはよく似合っていた。『007/ゴールドフィンガー』や『007/サンダーボール作戦』では、アストンにこれでもかというほどの武器が仕込まれていたが、DBSには一切ない。登場シーンも顔見せ程度だ。冒頭のビーチ沿いを走るシーンと、エンディングでウェディングカーとして使用されるシーンの2回のみである。本作の目玉はあくまでも新しいボンドであり、また、全体に落ち着いたムードの作品だったこともあって、DBSに付け加えられたのは特注のグローブボックスだけだった。

第20作の『007/ダイ・アナザー・デイ』と2006年の『カジノ・ロワイヤル』もそうだが、フォードはこの映画を新作のショーケースとして活用した。のちにボンドの花嫁となるテレサ(ダイアナ・リグ)が使うのは、発売したてのマーキュリー・クーガーだ。テレサはこれでブロフェルドの殺し屋たち(悪人はたいていいつもメルセデス・ベンツ)をスイスの雪の中で見事に出し抜く。さらには、氷上レースに飛び入り参加して、レース中だったフォード・エスコートを何台もはじき飛ばしている。

時の流れは、車にも映画にも優しい。1960年代後半には、どこかあか抜けずパワー不足に思えたDBSが、今は魅力的に映るようになった。

映画が公開されるころ、アストンマーティンは資金難に陥っていた。次にアストンが登場するのは、1980年代も後半に入ってからのことだ。007シリーズも、時代に取り残されつつあるという難題に直面することとなる。ボンドには、もっとふさわしい車が必要だった。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Paul Hardiman Photography:Ashley Border, Simon Clay, Paul Harmer

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