もしもコンセプトカーのデザインに、フェラーリエンジンを載せたら|ランチア・ストラトスという奇跡

Photography:Matthew Howell



ここに紹介した1台は、ほとんどの時間をニューヨークで過ごしてきた。ストラトスの正式な販売は、イタリアのほかベルギー、西ドイツだけなので、アメリカでは希少な車だった。レーシングドライバー兼ディーラーのボブ・グロスマンが輸入して1976年に登録、アメリカのランチア・クラブ元会長であったアーマンド・ジリオが購入した。

ジリオはこう振り返る。「私は50年代に海軍将校でした。ミラノの叔父を訪ねたときに叔父のアウレリアを運転する機会があり、そこからランチアに興味を持つようになりました。軍を離れた際にアウレリアを購入しましたが、パリ・サロンに出たワンオフでしたよ。それ以来、ラムダ、アストゥーラ、フラミニアと、あらゆるモデルを手に入れました」

「このストラトスは、製造されてから1年後に購入し、ニューヨーク州のライセンスを手に入れました。それ以来、2年前までずっと持っていましたよ。カーペットに至るまで、すべてがオリジナルのままで、一度も傷めたり修理したりしていないですから。この車でドライビングを楽しみ、ライムロックでクラブイベントに出たこともあります。本格的なタイヤを履いたら、はるかによくなったな。タイムトライアルにも何度か出ましたが、私はランチア製のフォーミュラ・ジュニア、ダグラーダを所有していて、レースはそれで出ていたから、ストラトスは個人的に楽しむロードカーでしたよ」

このストラトスは 2年前に英国にやってきた。入手したのは、ル・マンに何度も出走したことのドライバー兼ヒストリックカーディーラーのグレガー・フィスケンだ。すべてに使い込まれたものならではの、風格を感じる。グラスファイバーのボディには微細なクラックが浮かび、パネルの"チリ"のデタラメさはあの時代ならではだ。ストラトスはクレイジーな車だと言っても、文句はいわれないだろう。今見てもラディカルだ。だがそれは、イタリア車ならではの愉快なクレイジーさで、人を虜にする魅力と非日常性とが両立している。まさに名車だ。

よくストラトスについて、"あり余る"パワーとホイールベースの短さから、必死になってステアリングを握りしめていなければならないといわれるが、それは必ずしも正確ではない。ビクビクする必要はないが、車の力を最大限に引き出すには相当の技量が必要ということなのだ。だが、この特別な車をニューヨークでドライブしていたアーマンド・ジリオの場合は、まったく別の話だろう。イエローキャブやリムジンが行き来するニューヨークの雑踏では、きっとストラトスはほかの惑星から降り立った宇宙船のように見えたことだろう。人を煙に巻きながらも魅了する、そんな"らしさ"が際立っていたはずだ。 ストラトスのような車はほかにはない。あらゆる意味で真に"オリジナル"、だからこそこの希有な車は人を惹きつけてやまないのだ。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Richard Heseltine 

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