真二つに評価が別れた英国車「ラ・サルト」は、伝統の継承者か?名車ディティールの寄せ集めか?

Photography:Tim Andrew 

ベントレーRタイプのシャシーに架装されたラ・サルトは、かつての偉大なコーチビルト・ベントレーを思い出させる。マーク・ディクソンがレポートする

Rタイプ・コンチネンタルへのオマージュ
この車をご覧になった読者の第一印象はどういうものだろうか。少し挑発的な問いかけかもいしれないが、実際にラ・サルトがベールを脱いだとき、意見は真二つに分かれた。一方は英国伝統のコーチビルドの見事な継承という意見、これに対して、過去の偉大なベントレー車のディテールの寄せ集めのようだとの見解だ。ラ・サルトは過去のどの特定モデルのコピーでもないが、いかにも歴代のベントレーのスタイリングの特徴を押さえたデザインだ。しかもシャシーは本物のベントレーRタイプのものなのである。どちらの意見に賛同するとしても、このプロジェクトの根底にある純粋な情熱は認めるべきだ。ラ・サルトは、パリやミラノの伝統あるカロッツェリアの作品ではなく、サマセット州の片田舎にある小さなレストア工房の作品なのだから。

歴史上のテイストを融合したスタイリング
写真で見るラ・サルトは、フランスの有名な漫画、タンタン・シリーズの中に登場する作者のエルジェが創り出した車のようにも見える。これはオリジナルのベントレーとは結びつかないイメージだが、実は先例はあった。

1947年パリ・サロンのために、カロスリのフラネイ(パリ)がワンオフで製作したフラネイ・ベントレーMk6がそれに当たるだろう。だが実際には、ラ・サルトのスタイリングは過去の多くのベントレーに用いられたデザインテイストを趣味良く融合させたものといえよう。Bピラーから後部の造形は、見るものが真っ先Rタイプ・コンチネンタルのイメージを結びつけ、その印象を強烈に呼び起こす。

リアウィンドウはRタイプ・コンチネンタルそのものだ。ベントレーは1952年に突如、Rタイプのシャシー上にH.J.マリナー製のアルミ製ファストバックボディを乗せた"コンチネンタル"と呼ばれるスペシャルを発表した。コンチネンタルはSシリーズまで継続されるが、208台のみ造られたRタイプ・コンチネンタルは、戦後のベントレーの中では最も美しいモデルと後年評価されている。フロントエンドは、伝統のクロームメッキ仕上げのベントレーグリルをあえて排した穏やかなもので、1948年のパリ・サロンのためにピニン・ファリーナがデザインしたベントレー・クレスタやパリのヴァン・ヴォーレン製の有名な1938年エンビリコス・ベントレー4 1/4リッター(シャシーナンバーB27LE)を彷彿とさせる。完成したデザインの評価はどのようにも可能だが、要はこれを製作したベンスポーツ社のオーナーであるロバート・ペリーがいかに意図したかである。

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:Mark Dixon 

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