カウンタックを手がけたマルチェロ・ガンディーニがベルトーネ・シビロで蒔いた未来の種

ベルトーネ・シビロ



メディア受けしない車
シビロをひと口でいうと、アルファロメオ・ナヴァーホやジャガーXJ-Sがベースとなったアスコット、それにフェラーリ・レインボーといったガンディーニの初期の作品に見られた要素を入れ込んでまとめ上げたものだ。グラスファイバーは一切使わず、ボディはすべて鋼板を手作業で折り曲げて作られている。しかし、ベルトーネから出された発表資料には、スチールとガラスを継ぎ目なく調和させた外観には最新のガラス加工技術が投入されていると書かれている。これはベルトーネが、ヨーロッパの大手ガラス会社、グラヴァーベルと長いことコラボレーションを組んできたことへの配慮だろう。その接合部たるボディシェルの浅い溝の部分は当初は樹脂でシールされていたが、そのあと色のついたプラスチックパネルに変えられている。プラスチックパネルが内と外からスプレーペイントされているのは、ボディカラーと自然に溶け合ったように見せるためだが、仮にかすかなヘアラインクラックが入っても見えるようにするというのが製造上の理由である。少なくともクラックがあったら、そのままお披露目するわけにはいかないからだ。不幸にも見つかった場合、公開時までに作り直す時間などないから、急遽サイドウィンドウにラップをかけて対処しようと準備までしていたという。

そうでなくても1978年のイタリアはあまりいい時期ではなかった。赤い旅団によるテロ事件で国中が怯えていたからである。フィアットの社長ジョヴァンニ・アニエッリはトリノを「噴火直前の状態」と称し、ショーがテロの標的とならないように会場の外に警察官を多数配置させたほどだ。それでもなお、シビロは華やかなファンファーレのもとベールを脱いだ。しかし、メディアの反応は賛否両論が渦巻くものだった。

『ロード&トラック』誌は、「衝撃的に見えるが、スロットカーのようでもある」と評し、『Car』誌は、「普通ならボディ面の変化は光の反射でわかるが、シビロの場合、ブロンズ色の塊が光を飲み込んで反射しにくくさせてしまうため面と面の間の境界がわからない」と散々な書きっぷりだった。しかし同誌は数カ月後にプロトタイプに乗った記事で好感度の高いリポートを載せている。「たとえ色の付いたガラスが多少なりとも視界の妨げになろうとも、シビロはドライバーにとってとても楽しい車である」と結んでいる。

『Car』誌はベース車両と比べてこうも言っている。「ストラトス・ベースのサスペンションは動きがとても素晴らしい。シビロは同じサスペンションの上にストラトスよりはるかに重いボディが乗っかっているが、その結果は絶大。主要道はもちろん、舗装が継ぎ接ぎになった道路や古い田舎道を走っても、ダンピングがよく効き、ノイズやハーシュネスも乗員にはあまり伝わってこない。本当に素晴らしい乗り心地だ。シビロはストラトスと比較するとまるで別の車であり、車の中でも車外でもエンジン音が気にならない、おとなしい車なのである」

さらに「この車には心の底からエアコンが必要だし、小さな丸く開いた穴は高速道路の料金所でのお金のやりとり以外に使い道がない」ということも書かれていた。また、雑誌のカメラマンにとって、このボディカラーは頭痛の種であった。どんなに光の当てかたを工夫しても、細かい部分まできれいに撮ることはできないからだ。のちにベルトーネは光の反射でできる影を少なくする実験をしたことがあるが、その頃プレスの連中はすでにシビロのことは関心の外にあった。そんなこともあってシビロはベルトーネ自身のミュージアム行きとなる前にショー向けの外装を外された。


シビロの褐色のボディに収まったランチア・スクアドラ・コルセのディーノV6エンジン。ワークスラリー仕様のストラトスから移植したものだ

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編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Richard Heseltine Photography:Mark DixonThanks to:Corrado Lopresto and Massimo Delbò

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