カウンタックを手がけたマルチェロ・ガンディーニがベルトーネ・シビロで蒔いた未来の種

ベルトーネ・シビロ

1978年、ベルトーネはランチアと手を組んでガラスとスチールがシームレスに接合するコンセプトカーを誕生させた。シビロと呼ばれるその車はどんな意図をもって作られたのだろうか。


見かけは"濃い"が中身はもっと濃い
この車の室内はあまり心地よいとはいない。ドライバーの体は、この世でもっとも広いサイドシルとセンタートンネルの間に挟まれ、足は車の中心寄りに大きくオフセットしたペダル配置のおかげで大きくねじ曲げられるからだ。ステアリングホイールは板状のディスクタイプで、親指で押す大きなボタンが3つ内蔵されているほか、他の操作系もステアリングホイール周辺にまとめられている。普通だったらダッシュボードと呼ぶ部分は、この車の場合、パッドの入った革製のバーに当たり、機能的なものは何も付いていない。速度計と回転計はそれぞれ横長のデジタル表示で、ウィンドスクリーンの下の平地に埋め込まれている、といった具合にすべてが常識破り。電源が入ればますます未来的になる。

ウィンドスクリーンは1枚の大きな平坦なガラスだ。しかし、ドライバー側のドアにガラスはなく、飛行機の風防ガラスに使われる透明な樹脂に小さな丸い穴がひとつ開いているだけ。だから乗るととても暑い。直射日光の下に駐めていなくてもオーブンの中にいるような暑さだ。

しかし真の熱源はその色にある。小さなランチア・シビロは車全体が褐色なのである。こういう車はいまだお目にかかったことはない。その色はぞっとさせるほどで、1970年代に作られた車でこれ以上気が滅入る車はないのではないだろうか。エクステリアから受ける印象と、乗り込んだときに感じる未来感、その落差ともいうべきものが、デザイナーのマルチェロ・ガンディーニがこの車に込めた意図である。しかしこの車を『風変わりなコンセプトカー』というレッテルだけ貼って終わらせてしまうと、意義ある試作車というもうひとつの側面を見失うことになる。シビロは、発想から製造手段に至るまで、いわば"開拓者"としての役割を存分に背負った車であり、そのあと数十年にわたる世界の量産車設計に少なからぬ影響を与えた功績は、今日だからこそ理解できる。

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編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Richard Heseltine Photography:Mark DixonThanks to:Corrado Lopresto and Massimo Delbò

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