美しい街並みとワイン、食...シトロエンDSで走るフランス・アルザス地方への旅

Photography:Martyn Goddard

シトロエンDSを駆って、フランスのある地方を目指そう。そこには美しい街と素晴らしいブドウ畑、最高のレストラン、そして選ぶのに困るほど多くの美術館のすべてが揃っている。ぐずぐずしている理由があるだろうか?

"Mutzig"(ムッツィグ)、"Kaysersberg"(カイゼルスベール)、"Pfaffenheim"(プファッフェンハイム)、"Riquewihr"(リクヴィール)という街の名前を見て、これがフランスの街であると賭けるのは、よほど向こう見ずなギャンブラーでもためらうことだろう。どうみてもドイツ語の名前である。だが実際には、これらはフランスで最も古いワイン街道沿いに点在する街である。"Route des Vinsd’Alsace"(アルザス・ワイン街道)はアルザス地方のマルレンハイムからタンまで、ヴォージュ山脈の裾野を縫うように約200kmにわたって続く道で、すでに61年の歴史を持つ。フランス人には馴染みのない街の名の理由は、フランスとドイツがアルザス地方の領有をめぐって長年争ってきたという歴史のせいである。

私たちの旅の足は熱心なシトロエン・ファンであるアンドリュー・ブロディから借りたシトロエンDSだ。陽のあるうちにアルザスに着くためには、ロンドンを早朝5時には出発し、秋の霧に包まれたドーバーでP&Oフェリーに乗り込まなければならない。DSはあの軽蔑すべきスピードバンプを存在しないかのように踏み潰して走るので、私たちは豪華なブラウンレザーのシートに身を沈めてリラックスしていられた。

ルージュ・マッセナという深い赤に塗られた燃料噴射仕様の1974年式DS23パラスは、フラミニオ・ベルトーニの1950年代の傑作の中でも白眉といっていい。しかも当時としてはきわめて先進的な技術が満載されている。たとえばセミオートマチック・ギアボックス、ハイドロニューマチックのセルフレベリング・サスペンション、そしてステアリングと連動する可変ヘッドライトなどは、大きく時代を先取りしていた。実は40年も前の車だということを示すのはパワーウィンドウや集中ロックなど、小さな便利装備だけである。

初日は海を渡ってフランス、ベルギー、ルクセンブルク、そしてドイツと高速道路を乗り継ぎ、720kmあまりを走ったが、シトロエンは現代の車に混じって70mph(112km/h)で楽に巡航し、燃費も12km/Lぐらいと悪くなかった。ドライビングポジションはちょっとアップライトぎみだが、それ以外は4時間の連続運転もまったく苦にならないほど快適である。

夕方の早いうちには私たちはアルザス地方に入り、ラ・プティット・ピエールに向かう空いた田舎道を走っていた。オー・リオン・ドール・ホテルにシトロエンを停めると、通りがかった人が驚いたように言った。「イギリス人が、もっとも美しいフランス車に乗っているのか」



風光明媚なフランスの田園地帯を走り抜ける長距離ドライブは、シトロエンDSの真価が発揮できる舞台だ。ミュゼ・ラリックには有名なガラス製のラジエター・マスコットが並んでいる。ミュゼ・デュ・バガージュでは鞄の進化を間近に見ることができる

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words and photography:Martyn Goddard

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