シェルビー・コブラ427|邪悪な走りと語り継がれるレースカーの意外な本性

シェルビー・コブラ427


グッドウッドのピット前ストレートの南端。そこにある木の柵の前にコブラを停めれば、まさにタイムワープを覚える。走りも当時そのまま。キーを回し、巨大なV8に火が入ったとたんに、しっくりとくる。恐ろしくパワフルなのは言うまでもない。最大馬力は600bhpに達するのだ。だが、7.0ℓのエンジンでサイドマフラーにも関わらず、音はむしろおとなしく、アイドリングも思いのほかスムーズだ。

トランスミッショントンネルが大きいため、シフトレバーがドライバー寄りにあり、足も右に寄せなければならない。最初の驚きは、クラッチがかなり軽いこと。次の驚きは、ステアリングも軽いことだ。恐るべき車だが、今のところ非常にフレンドリーな印象。

数周のラップを楽しむためにピットからゆっくりとサーキットへ出ていく。右足を床まで踏み込んで、V8の轟きを聞いてみたい誘惑に駆られる。加速であばらが背骨の方に押しやられる感覚を味わってみたい。そうなることは容易に想像できる。抗しがたい欲望を抑えながら走るのはフラストレーションがたまるが、おかげで、このコブラは、ほぼどんな回転速度でも太いトルクを発揮することが分かった。たとえ本来の快適な回転域より、はるかに低くてもそうなのだ。少し反抗的になったり、ぎくしゃくしたりすることもあるが、常に希望に応えて加速してくれるのである。

この撮影の4日後、コブラのオーナー、ヘンリー・ピアマンにも、もう少し強くアクセルを踏み込むチャンスが訪れた。フェスティバル・オブ・スピードでマーチ卿の敷地をデモンストレーション走行することになったのだ。ヘンリーにその感想を尋ねた。

「目から鱗だったよ!」ヘンリーの興奮ぶりが電話からも伝わってくる。「レーシングスタートで注目を浴びるのも実に簡単だった。3000rpmでクラッチをつなぎ、リアタイヤを空転させてから、スロットルをほんの少し削ってトラクションを得た。リアの独立懸架はパワーを完璧に路面に伝えてくれる。フェスティバルでブルース・カネパ(米国のクラシックカーレーシングドライバー)と話したんだが、彼はコブラを何度も運転したことがあって、レース仕様の場合、427のほうが運転がずっと易しいと教えてくれた。289はシャシーと常に戦わなきゃならないからさ」

「信じられないほど扱いやすい車だよ。ステアリングが本当に軽い。ダンロップのレースタイヤだったから、モルコムへのターンインもアンダーステアなしでキビキビとしたものだ。速い車なのにあまりスピードを感じない。分かるだろう。とにかく走るのが楽しい車だよ」

シューッと脅すだけで、実際には噛みつかない毒ヘビ? いやコブラはそんな車ではない。ただ、正しいコブラは、無為な挑発を受けない限り、むやみに人に牙をむいたりはしないのだ。


ACの銘が入ったスロットルペダルとイギリスの計器類がコブラの出自を明かしている


ウィンブルドン・ホワイトは、グッドウッド・モーター・サーキットによく似合う


1966年ブランズハッチのイルフォード500で、スタートダッシュを見せるCSX3006


シルバーストン開催の1966年マルティニ・トロフィーでは金属製のハードトップを装着


1967年プレスコット、タイヤがパワーを抑えきれず、お尻を振りながらスタートとなった


イルフォード500のピットストップで。パイパー、ワーナー、ボンデュラント



フォード427サイドオイラーV8は非常に優秀なエンジンだ。ダイナモテストでは560bhp以上に達し、トルクは525lb ftもあるのだが、低速走行でも神経質にならなくて済む


1965年シェルビー・コブラ427
エンジン:6997cc、全鉄製フォードFEシリーズ・サイドオイラーV型8気筒、OHV、ホーリー製4バレルキャブレター
最高出力:564bhp/6200rpm(台上試験) 最大トルク: 72.5kgm/4700rpm
変速機:前進4段MT、後輪駆動、ソールズベリー製LSD ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション:独立式、コイル・アンド・ウィッシュボーン、テレスコピックダンパー
ブレーキ:4輪ディスク 車重:975kg 最高速度:257km/h 0100km/h:4.3秒

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA
Words:Mark Dixon Photography:Jamie Lipman

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