海外ドラマ「The Persuaders ダンディ2華麗な冒険」のアストンマーティンDBS

Photography: Martyn Goddard



オーナーになる権利

さて、ドラマの主人公とも呼ぶべきアストンDBS。一見V8のように見えるが、 The Persuadersのアストンは通常の6シリンダーDBSだった。どうやらプロモーションのため、ホイールや飾り付けなどで、その頃発売になったばかりのV8に似せていたようだ。撮影終了後はとある個人に売却され、その後2人のオーナーを経て、70,000マイルの走行距離と、それに見合った使用感がアストンマーティンDBSに加わった。3人目のオーナーの手に渡った頃「The Persuadersのアストン」というステータスに価値が付いてきたらしく、下手なレストアは施されなかったものの、それ以上に劣化はしないように気をつけられていた。

このDBSを救ったのは4人目のオーナー、マイク・サンダースである。彼は90年代半ば、この車をアストンマーティン・ファクトリー(アストンの正規レストア部門)に整備に入れ、徹底的にレストアさせたのだ。

サンダースは表には出ない性質だったが、エドは2000年代になって、やっとコンタクトを取ることに成功した。サンダースがまだその個体を所有していることを知っていたが、エドは既に別のDBSを購入していた。連絡の目的は純粋にサンダースから車の歴史を学びたかったことにほかならない。ふたりには共通の趣味から友情関係が自然と芽生えた。そして出会いから4年ほど経った頃のことだ。

「突然Eメールをサンダースからもらったのです。そこには私にDBSの5人目のオーナーにならないかって…。多分、私が車の価値をきちんと理解し、これからも大切にするだろうと思ってくれたのでしょう」。エドはそう振り返る。サンダースも良い選択をしたと思う。彼がレストアをして10年、そろそろまた手を入れるべきタイミングに来ていた。そしてエドはさらにDBSを完璧な状態に仕上げることに真剣になった。まず足回りと塗装を、それぞれのレストアの専門家に依頼。そしてそれ以外のレストアに関しては、エド自身が行った。フロアの腐食を直すため、仰向けで1週間は過ごしたこともある。彼はとても几帳面であり、ビラ・デステに出展する際にも、数カ月前から100時間以上もの作業を施すほどだ。

エドはそれまでのオーナーとは異なり、このDBSを積極的に披露することに努めた。また、そのためにできるだけドラマと近い状態を保つようにしている。

たとえばナンバープレートひとつにしても、そのこだわりは半端ではない。登録番号はもちろんPPP 6H。プレートを止めるボルトまでパーフェクトに研究したが、GBのステッカーを飾るためのバンパーブラケットはまだ見つかっていない。それでもエドは「これは、多分作らないとダメでしょうね」とあきらめる様子は微塵もない。トランクに記されたロジャー・ムーアとトニー・カーチスのサインは本物。普通ならそれだけで十分満足するはずなのだが。

エドは「機能しないものは完璧ではない」という信念には常に忠実で、イベントやドライブでも必ず自走で向かう。だから見た目同様、車は常にグッドコンディションに保たれている。このDBSは、当時「男の車」と呼ばれており、明るい外観とは対照的にインテリアはシックに黒でまとめられている。例外は木製のハンドルとグレーのヘッドライニングのみ。それ以外は品質の良い素材を使っていて、本革張りのシートを含めオリジナルと同じ仕様である。

操作には多少のコツが必要で、固めのクラッチとシフトは都会では早めに劣化してしまうかもしれない。パワーステアリングを装備して多少は楽になっているが、リバースも苦労がともなうものと予想する。

ただ、これらは当時の大きめのGTカーには当たり前のことであった。アストンマーティンDBSは近所のスーパーへ買い物に行くための車ではなく、ゆったりとドライブするための車である。一定の速度を超えてくると挙動は常に想定内で、安定感も十分である。

窓からイタリアの温かい春風を感じる。コモ湖の湖畔を走りながら、青春時代の思い出が蘇ってきた。ブレット・シンクレアが海峡を渡り、暖かくて賑やかな場所へ車を飛ばしたのも頷ける。そこに行くための手段として、DBSは正にぴったりな1台といえるだろう。


1970アストンマーティン DBS
エンジン:3995cc, DOHC 直列6気筒、3 SU HD8キャブレター パワー: 282bhp @ 5500rpm
トルク:290 lb @ 4500rpm トランズミッション:5速マニュアル、後輪駆動 ステアリング:ラックアンドピニオン、パワーアシスト
サスペンション(前):ダブルウイッシュボーン、テレスコピックダンパー、コイルスプリング、アンチロールバー
サスペンション(後):デディクソンアクセル、トレーリングアーム、セレクタリデ・ダンパー、ワッツリンケージ、コイルスプリング
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク 重量: 1589kg
パフォーマンス: 0-60mph 8.6秒 最高速度: 142mph

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編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:数賀山 まり Translation:Mari SUGAYAMA
Words: Dale Drinnon Photography: Martyn Goddard

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:数賀山 まり Translation:Mari SUGAYAMA Words: Dale Drinnon

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