バック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアンの知られざる悲劇的な歴史とは

デロリアンDMC-12



デロリアン 夢から悪夢への転落

ジョン・Z・デロリアンは、夢のスポーツカーを実現するためなら慣例にとらわれない覚悟を決めていた。しかし、生産拠点に北アイルランドを選んだのは、自殺行為だったのかもしれない。

デロリアン・モーター・カーズ社(DMCL)が1978年10月にイギリスで始動したときは、まだプロトタイプの開発中だった。DMC-12の生産移行を急ぐため、ヘセルでのエンジニアリングプログラムと平行して、耐久テストがコベントリーの本社で行われていた。この当時、開発プログラムの同時進行は業界の慣例となっていなかった時代だった。

生産を北アイルランドで始めるにあたって、ウエストミッドランズにある無数のパーツサプライヤーと取引契約を結ぶ必要があった。これは、イギリスのマネージメントチームにとって重圧だったが、紛争中の北アイルランドで更地から工場を興すのに比べれば、たいしたことではなかった。

ダンマリーの工場は、地域に蔓延する失業問題(カトリック地区では失業率が50%に上っていた)にとって格好の解決策だった。しかし、労働者には技術がなく、訓練が必要だった。さらに、短期間で生産の準備をするだけの産業インフラは整っていなかった。

プロテスタント系とカトリック系両方からなる従業員は、工場の門を入る時に対立を捨て、車の組み立てをなんとかこなした。その工程は、効率的生産方式のお手本だった。FRPのフロアパネル以外、すべてのコンポーネントが外部から供給されたのだ。間に合わせの方法だったが、これもまた、その後業界の慣例となっていく。

生産のスタートだけでも課題は山積していたが、ジョン・Zは無茶なスケジュールを立てていた。イギリス政府に対して、パイロット生産車を1980年5月までに完成し、その1年後には年間3万台を組み立てると約束していたのだ。とはいえ、自身はニューヨークにとどまり、業界の実力者であるバリー・ウィルズ(仕入れ部長)や元GMのチャック・ベニントン(生産計画部長)といった人物に、英国での業務を任せた。

1981年1月21日、8カ月の遅れと3400万ポンドの予算超過の末に、ようやく最初のDMC-12がダンマリーの生産ラインを離れた。メディアは税金の使い過ぎだと非難したが、時間的厳しさを考えれば称賛に値する。だが、急ごしらえに変わりはなく、組み立ての品質は十分ではなかった。

ただ、走行テストの評価は好意的だった。『Car& Driver』誌は、ポルシェ911やフェラーリ308と比較し、「デロリアンがこのまま続ければ、ヘンリー・フォード以外で唯一、この業界に名前と業績を残す北米人になれるかもしれない」とすら讃えた。しかし、このDMC-12よりはるかに速いシボレー・コルベットが1万6258ドルだったのに対し、2万5600ドルという値段では、商業的に成功するわけがない。

当初こそ売れ行きは好調だったが、その年の終わりには、買い手の列も消えていた。そして、もともと財源のもろいDMCに嵐を乗り切る術はなかった。イギリス政府からの追加投資の確保こそ成功したものの、時すでに遅しだった。

1982年2月19日には管財人が選任され、DMC(1982)社が結成されて生産を続けるかたわら、実行可能な救済計画が立てられた。期限は7月31日だったが、ジョン・Zは、その日が来ても政府が救済措置を取ってくれるものと見込んでいた。

緊急の課題は、需要を掘り起こし、あふれた在庫を売ることだった。しかしその裏で、バリー・ウィルズら経営陣は、デロリアンをメーカーとして売却できるよう、あらゆる策を講じていた。

しかし、まったく別の問題がこの会社の息の根を止めることになった。10月19日、FBIがロサンゼルスにあるホテルのジョン・Zの部屋に踏み込んだのだ。それは、「麻薬に関する違法行為」が理由だった。すべての夢は、コカインの詰まったブリーフケースが写真に収められた瞬間に消えた。

その4日後、ウィルズとベニントンも万策尽き果てた。2年に満たない操業と約9500台の生産で、ダンマリーの工場の門は永遠に閉ざされた。

DMC-12は、発売のタイミングが悪く、価格も不適切で、会社には不況を乗り切るだけの強さがなかったと言えるだろう。だがその一方、生みの親のユニークな個性を今に伝える魅力的な記念碑であるとも言える。ほかの誰が挑んでも、この車を世に出すということを実現できなかっただろう。30年という年月が流れてもデロリアンは未だ新鮮な輝きを放つ。


DMC-12を形作った2人の男。ジョルジェット・ジウジアーロ(左)とジョン・Z・デロリアン

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