モーガン スリーホイラー|マニアを熱狂させる現代版"車のシーラカンス"

Photography: Mark Dixon

モーガンは"車のシーラカンス"などと揶揄されているほど、ヴィンティッジ期の自動車造りの伝統を頑なに守り、その姿勢に共感する人々から強く支持されている。モーガンの初期のモデルとして、最もよく知られているのが三輪車、"スリーホイラー"であろう。もう生産を終えてから50年以上を経ているというのに、モーガンはスリーホイラーの現代版を発表して、世界中を驚かせた。それは愚かな行為か、はたまた天才的な妙案なのか。Octaneは、それを見極めようと編集記者のデイヴィッド・リリーホワイトと共にマルヴァーンリンクのファクトリーへと向かった。彼らは1931年製スリーホイラーも用意して、私たちの到着を待ち構えていた。

新しいスリーホイラー

「祖父は素晴らしいカーガイだ」と誇らしげに話すのは、創業者の"HFS"こと、ヘンリー・フレデリック・スタンレー・モーガン(1881〜1959年)の孫、チャールズだ。彼は1931年製スリーホイラーを所有している"モーガンファン"でもあり、「祖父のコンセプトは今日でも立派に通用する」ともいう。

彼の発言を裏付けるように、モーガンが2011年のジュネーヴ・ショーで新しいスリーホイラーを発表すると、来場者はこれを"時代錯誤"とは捉えず、個性と魅力、スピードと興奮のある車だと歓迎した。現代では車に限らず、すべての機械製品から欠け落ちてしまった“楽しさ”を持つというのだ。遊び心のあるデザイン、やり過ぎというくらいのグラフィックオプション、戦闘機のような雰囲気が見る者を虜にした。その熱狂ぶりは本物で、価格が3万ポンド(2万5000ポンド+税)であるにもかかわらず、 3カ月間で500台もの予約が押し寄せてしまった。

副編集長のマーク・ディクソンと私がマルヴァーンリンクにあるモーガンの歴史的な本拠地に着くと、ちょうど工場見学を始めた少人数のグループがいた。子ども連れの家族や引退した老夫婦、30代のエンスージアストなどだ。楽しげな一団は、スリーホイラーの周囲に集まって見とれていた。設計者のマシュー・ハンフリーズが飛び乗り、エンジンを盛んにブリッピングしながら駐車場を走り回ると、彼らから一斉に感嘆の声が上がった。モーガンが広い年齢層にとって、心躍らせる存在であることが実感させられる一時だった。

アメリカからのヒント

この現代版スリーホイラーが誕生したきっかけは、アメリカのリバティー・モータースが手掛けたエース・サイクルカーというモーガンのコピー商品であった。
この存在に興味を持ったモーガンのスティーブ・モリスとティム・ウィットワースは、調査と試乗のためにアメリカへ飛んだ。
懐疑的な気持ちを抱いてリバティー・モータースに踏み込んだ彼らであったが、ひとたび実物に接するとそれは感銘に変わり、帰社後には、役員会にエース・サイクルカーのデザインを買い取ることを提案した。リバティーの創業者であるピート・ラーセンは、優れたエンジニアであったのだ。

「最初はスリーホイラーのコンセプトに半信半疑でした。ところがリバティー・エースを運転してみたところ、考えが変わり、プロジェクトに納得したのです。スリーホイラーは正しく設計すればちゃんと機能し、最近ではまれな独特の運転感覚を提供してくれます」

チャールズ・モーガンが決定に至った動機をそう語ってくれた。
だが、モーガンはリバティー・エースをそのまま自社の製品とすることはしなかった。設計全般に手を入れ、より英国的に、よりカフェレーサーのように仕立て上げるという方針を定め、チーフデザイナーを務めるマシュー・ハンフリーズと、開発エンジニアのマーク・リーブス率いるチームが作業に当たった。

ボディのスタイリングを変更し、シャシーにも改良を施した。スリーホイラーの最大の特徴は剥き出しのエグゾーストパイプをくねらしたVツインエンジンで、ヴィンティッジ・モーガンではJAPやマチレスのエンジンが最高の務めをしていた。

リバティー・エースでは、このイメージを踏襲しようとハーレーダビッドソン製のVツインをフロントエンドに搭載し、ホンダ・ゴールドウィング用のシャフトドライブユニットを組み合わせている。

モーガンは自社製品に仕立て上げるに当たって、エンジンは高品質なことで知られる、アメリカのS&Sサイクル社製VツインOHVユニットの"X-ウェッジ"を選んだ。S&S製エンジンは、しばしばハーレーダビッドソンのシャシーに搭載されるほか、同社は専門的な指示を受けての作業にも慣れていたことが理由だった。今回のプロジェクトでも、S&Sの技術者は1カ月間にわたってモーガンの工場に出張し、スペック変更とクランクケースの開発に従事した。この作業の結果、排気量は1982ccにも達した。


飛行機を思わせる計器類や、爆弾ハッチの開閉スイッチを思わせるセーフティーキャッチ付のスターターボタン、さらに革張りのコクピットのトリムがこのスリーホイラーを個性的にしている。私たちが気に入ったのは、背後に写っているグレーの塗色だ

もっと写真を見る

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: David Lillywhite

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事