オークションでイギリス車史上最高値を更新した「アストンマーティンDB4 GTザガート」

Photography: Paul Harmer and Xisco Fuster



さらに軽く

このアストンは美しい車として定評がある。たしかに斜め前から見ると文句なく美しい。グリル以外は徹底的に削ぎ落として、考え得る限り最小限のデザインでアストンらしさを表現している。残ったグリルは、初期DB4の細かなメッシュと後期の大きな格子の中間だ。フロントフェンダーは低くなだらかで、カバーの付いたヘッドライトも含め、不必要な贅肉は一切ない。ボンネットのエアスクープも消えて、カムカバーに沿って2列の緩やかな膨らみだけが残った。バンパーもなく、その場所を3個のエアインテークが占める。

リアの形状も同様に滑らかだ。ルーフは幅を狭めながら膨らんだトランクリッドまでなだらかなスロープを描く。通常のDB4を彷彿とさせるものの、リアフェンダーに溶け込むラインがもっと滑らかだ。標準のDB4が、フィン、ファストバック、エアスクープ、フロントフェンダーといった異なる要素を絶妙のさじ加減で組み合わせているのに対して、ザガート版は全体が流れるようにひとつにまとまっている。お得意のダブルバブルルーフもここでは封印された。

ただ、私には少しだけ気になる部分が2箇所ある(ザガートが誰の目にもしっくりくるデザインを目指した試しはないけれど)。1箇所はテールの下面が地面から驚くほど離れていること。もう1箇所はサイドウィンドウの後端で、私の目には奇妙に中途半端に映り、リアウィンドウの上端との間隔が狭すぎるように感じる。だが、それでこそザガートのデザインというべきなのかもしれない。あえて小さな不協和音を奏でて、怪訝に思った人の目を吸い寄せるのだ。

ちっぽけなハンドルを引くと、運転席のドアは羽のような軽さで開いた。キッチンで使うアルミホイルに例えたくなるほど薄いアルミニウムでできているのだ。車の他の部分も同様に最低限の素材で造られている。ほんのわずかな圧力でもへこんでしまうため、2 VEVの面倒を何十年も見てきたオーナー家は苦労の連続だった。

1993年には大きな事故でかなり大きなへこみができたが、アストンマーティン・ワークスサービスですっかり元通りに修復された。それだけでなく、車全体が1962年MP209の仕様に戻され、今も新車同然のコンディションだ。1980年代にリアのホイールアーチに造られた小さなフレアも取り除かれた。唯一タイヤのサイズだけはオリジナルと異なっていたが、これも私たちが走行する直前に修正された。長年履いていた15インチのワイヤーホイールではなく、正規の16インチのボラーニ製ホイールに、ダンロップのレース用Lセクションタイヤを履いている。

MP209仕様について説明しよう。変更点は低いノーズと膨らんだリアに留まらない。隠れたパーツもDB4 GTから大きく進化している。そもそもシャシーがスチール製のプラットフォーム式ではない。軽量化のための穴を開けたボックスセクションフレームで、シャシーメンバーの間をシートアルミでつないでいる。パネルワークが生み出す滑らかなシルエットは通常通り鋼管で形作られているが、アッパーボディの構造を強化するため、細い鋼管を筋交い状に付け加えた。

美しく磨き上げられたフロントサスペンションのアッパーアームは、シャシータレットの内側ではなくその横でピボットし、ジオメトリーを調整しやすくなっている。リアはレバーアーム式からテレスコピック・ダンパーに変わった。また、リアのクロスメンバーにジャッキポイントが設けられた。シャシー後部には、ジャッキアップに耐えるだけの強度のある箇所がほかになかったからだ。こうして見ると、MP209と、そこから進化したDP212、DP214、DP215のプロジェクトカーが誕生した頃に、2 VEVをDB4 GTだと主張するとは、ずいぶん無理をしたものだという気がしてくる。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: John Simister 

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