まるでポルシェの交響曲。70周年記念「ポルシェ・サウンド・ナハト2018」に集結した歴史的レーシングカーとは

Images: Porsche

ポルシェ70周年の締めくくりとして歴代のレジェンドが集結し、そのサウンドを競い合った。

ポルシェの交響曲

2018年のポルシェ・サウンド・ナハトはユニークなパーカッションで始まった。新車のパナメラをパフォーマーが叩いてダンス音楽を奏でる趣向だ。しかし、本物の主役は12台の歴史的レーシングカーだった。1948年の356-1から917、モビーディック、そして最新のル・マン・カー、919スパイダーまで、ポルシェの金字塔が勢揃いしたのだ。サウンド・ナハトは8回目の開催だが、今年はポルシェの70周年記念イベントのクライマックスに位置づけられた。そこで、911人の招待客しか収容できないポルシェミュージアムからポルシェアリーナに会場を移動。4000人近いポルシェ・エンスージアストが見守る中、3時間余にわたって名車が1台ずつアリーナに現れ、その車と縁の深いドライバーやエンジニア、チームマネージャーらがインタビューを受けた。

圧巻だったのは、ステージに上がったそれぞれのレーシング・ポルシェがエンジンを思い切り吹かし、爆音と炭化水素と排気ガスをアリーナにまき散らしたシーンだ。環境意識の高いドイツでも、エンスージアストの情熱は変わらない。観客は拍手喝采で応え、ロックコンサートかスポーツイベント、あるいは大きな授賞式さながらの盛り上がりを見せた。主役は世界で最も偉大な車たちだ。実に胸躍るイベントだった。

取材陣は本番前のウォーミングアップにも招待された。屋外の駐車スペースで各車に最終調整を施し、エンジンを始動する様子は見応えがある。その間にアリーナでは、リチャード・アトウッドやワルター・ロール、ハンス-ヨアヒム・シュトゥック、ハンス・ハーマン、ハイス・ファン・レネップ、ヘルベルト・リンゲ、ノルベルト・ジンガーら錚々たる面々が、ステージで準備を整える。誰もが再会を喜び合い、ジャッキー・イクスは以前のチームメートと順々に挨拶を交わしていた。

アトウッドに話を聞いた。「一番いい音を聞かせるのは917だと思うよ。この中で最もカリスマ的な車だ。気筒数が多いほどサウンドもいい。必要ならフラット16の投入もあり得た。ターボの登場で、レースに出る前にお蔵入りになってしまったけれどね」 アトウッドは、917が初めて投入された1969年のル・マンを克明に覚えていた。「残り3時間で壊れたけれど、私は嬉しかったよ。なにしろ、最初の2時間でもう体はボロボロさ。耳はバカになるし、目も眩むような頭痛はするし、首は死んでしまうし。あんなパワーは経験がなかった。すぐにでもリタイアしたかったくらいだ。ところが21時間も走りやがったんだ!」

「1969年がウェットだったら話にならなかっただろう。空力的にひどいものでね。235mphに達すると今にも浮き上がりそうだった。私たちは実験台さ。あんな速度でのレースは前代未聞だった」

この夜、最初にアリーナに登場したのは1948年の356-1だった。吹かすと驚くほど深みのあるサウンドだ。「ここから伝説が始まった。私もこの車と同じくらい年寄りだよ」とワルター・ロルが話す。その横に立つヘルベルト・リンゲは、1943年からの社員で、ポルシェ最初の見習い工のひとりだ。

次に1962年のF1カー、804が登場。空冷式の水平対向8気筒エンジンは極めて個性的な歌声だった。続く1971年917はアトウッドの話を裏付ける迫力だ。さらにハイス・ファン・レネップのドライブで1974年911RSRターボが姿を現し、フィーンというターボの駆動音とひび割れた轟音の二重奏を響かせると、割れんばかりの拍手が贈られた。

ハイライトといえるのが1978年935、通称"モビーディック"だ。その姿もさることながら、ブォン、ブォオン、フィーン...というサウンドも恐ろしいほどの迫力だった。出力750bhpを誇るツインターボ3.0リッターのモンスターについて、ハンス・ハーマンはこう説明した。「これは第3センターステージに上がるまでには何度か切り世代だ。1978年まではこんなことも認められていたのさ。まさにロケットだよ」

続いて登場したのは、ジャッキー・イクスの1988年パリ-ダカール959(未レストアでフィニッシュしたときのまま)と、デレック・ベル/ハンス・ヨアヒム・シュトゥック組の1987年962だ。「この車は私の人生そのものだよ」とベルが笑うと、「史上最高にアブないレーシングカーだからな」とシュトゥックが続けた。

決して大音量ではないものの、オラフ・マンタイの1993年911カレラ2カップカーには背筋がゾクゾクさせられた。鳴き交わすバッファロの群の中でライオンが咆哮するような音なのだ。さらに911が続き、3台目にミドシップになった今年のル・マンRSRが登場し、ひび割れた爆音でそのトリを飾った。いよいよ最後の1台は、2017年にル・マンを制した919ハイブリッドだ。センターステージに上がるまでには何度か切り返さなければならなかったが、2.0lのターボV4ハイブリッドは締めくくりにふさわしい大迫力だった。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA 

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