今年で設立55 周年となるランボルギーニの歴史的遺産を、未来に伝えるべく精力的な取り組みを行っているのが、ヘリテージ部門の「ランボルギーニ ポロストリコ」である。その設立は2015年と比較的新しいが、2017年3月にはサンタアガタ・ボロネーゼの本社内に専用施設をオープンし、本格的にレストア業務などを開始した。
ポロストリコとはイタリア語で「歴史的に極められた」を意味し、ランボルギーニ自らの手でヒストリックモデルのレストア作業を実施するほか、そのネーミングどおり車両の記録や公式認定書の発行、オリジナルスペアパーツの管理(場合によっては再生産も)行うという。世界中のクラシック・ランボルギーニのオーナーから受けたレストアの依頼は、自社の技術力によって完璧という言葉がふさわしい仕上がりのレストアが行われる。その修復に費やされる時間は6カ月から24カ月。もちろん、世界中にいるカスタマーのために、輸送から再納車までを担当する。
過去、愛車を専門業者に頼みレストアを行ったことのある方なら身にしみて感じるだろうが(実は私もそのひとりだ)、「資料が見つからない」、「部品が届かない」ことなどを理由に、それこそ作業に何年もかかることも、見積はなんだったのだというほどの高額な請求書が(完成前にもかかわらず、その都度)送られてくることも一切ない。実際にポロストリコに作業を依頼したオーナーによれば、発注時点で提示される修復時間や金額から大きく外れることはほぼ皆無だという。
そうした全世界のオーナーからの依頼を受けてヒストリックモデルのレストアをするのはもちろんだが、歴史的な名車を自ら復元し、サンタアガタにあるミュゼオ・ランボルギーニ(自社ミュージアム)やグローバルイベントに展示しファンにお披露目しているのもポロストリコのユニークな活動のひとつである。
ポロストリコが正式な活動を表明してから、ドイツ・エッセンで毎年開催されている世界最大のクラシックカーイベント「テクノ・クラシカ」では、例えばミウラ50 周年の2016年には完璧にレストアされたシャシーナンバー4846と普段なかなか見ることのできないレストア途中のシャシーナンバー5030のホワイトボディ(塗装前のアルミの地肌が艶めかしくも美しい)を展示し、ファンの目を釘付けにしたのは記憶に新しい。ちなみにそれ以前でもランボルギーニはこのショーの常連であり、2014年にはポロストリコ発足前に自社でレストアを行った350GTとジャルパを、2015年にはミウラ・ロードスターを展示するなど、一貫してヘリテージモデルへの敬意を欠かさない。
今年4月に開催されたテクノ・クラシカでは、エスパーダとイスレロの50 周年を記念して、1976年のエスパーダ(シリーズⅢ)と1969年のイスレロSの2台を展示。この時点でエスパーダはレストア途中であったが(この未完成の状態もまた興味深い)、翌5月に作業が完了し、9月7日から11日にかけてイタリアのランボルギーニ・エスパーダ&イスレロ50周年記念ツアーで走行シーンを沿道のギャラリーに披露される予定だ。
このツアーには全世界から両モデルのコレクターが参加し、イタリアで最も美しい道路のひとつとされるペルージャからオルヴィエート、アッシジに至るルートを経てランボルギーニ本社のあるサンタアガタ・ボロネーゼまで650kmを旅するという。
しかし、ポロストリコのレストアは、こうした過去の市販モデルだけにとどまらない。ランボルギーニのレース部門(当時)であったランボルギーニ・エンジニアリングが開発した1992年のF1マシン、ミナルディM191Bのレストアも先頃完成し、「スクアドラ・コルセ」主催のシェイクダウンイベントで、実に26年ぶりとなるサーキット走行を行った。
ご存知のようにミナルディM191Bは、フェラーリのF1マシンの開発責任者としても知られる天才技師マウロ・フォルギエーリがランボルギーニに移籍して手がけたV12エンジン「LE3512」を搭載。クリスチャン・フィッティパルディのドライブで1992年のシーズンを戦ったマシンだ。かつて日本人F1パイロットの片山右京や中野信治が所属したチームとしても、ミナルディは我々になじみ深い。実車はF1グランプリで最高11位を記録したシャシーナンバー003のM191Bそのもので、これまでムゼオ・ランボルギーニに展示されていた個体だ。燃料タンクやエンジンコントロールユニット、シートベルト、消火システム、タイヤなどの安全装備は交換されたが、エンジンやシャシーはポロストリコによる7カ月に及ぶレストアを経て、ふたたびレースに参加できる完璧な状態になった。珠玉のV12エンジンは、当時のオリジナルユニットとほぼ同じ700ps近くのパワーを発揮している。
ゲストとして当日シェイクダウンイベントに参加したジャンカルロ・ミナルディは「25 年から30年前のモデルだが、今見ても実にエキサイティング。テレメトリーやオートマチックトランスミッションが一般化される以前の最後のマシンで、そのアグレッシブなサウンドと低速から絶大なパワーを発揮する柔軟性溢れるエンジンパフォーマンスは、かつての素晴らしき時代を蘇らせてくれました」と語った。
スクアドラ・コルセのワークスドライバーであるミルコ・ボルトロッティとミナルディによって、この日M191B は20 周以上の走行を行った。1993年のエストリルでのテストで、かのアイルトン・セナを感動させたマシンは今後、歴史的F1マシンが参加するヒストリックF1チャンピオンシップレースに参戦する予定である。
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