オトナのオトコに似合う、マセラティ クアトロポルテ

マセラティのフラッグシップモデル、クアトロポルテをひとことで言い表すのなら、それはおそらく「Dandismo(=ダンディズモ)」というキーワードがふさわしいと思う。イタリア車好きならば、きっとこの意見に異を唱えることはないはずだ。

Dandismo(=ダンディズモ)」。英語では、すなわち「Dandyism(=ダンディズム)」ということになる。三省堂の大辞林によれば、ダンディズムとは、「粋や洗練を好み、それを態度や洋服により誇示してみせる性向。19世紀前半、イギリスの上流階級の青年たちに流行した伊達(だて)気質に始まる」とある。英国紳士という言葉もあるように、グローバルに視野を広げてみても、スマートでオトナのオトコの基準は確かに英国にあるように思う。しかし、イタリアでいうダンディズモは、これはあくまでも私見ではあるのだが、形式や伝統を重んじるそれよりももっと艶やかで色気がある男を指すように感じる。

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そんなイタリアの伊達オトコたち(とそのライフスタイルに憧れる我々)を虜にしてきたイタリアのラグジュアリーサルーンが、マセラティのクアトロポルテだ。ドイツ勢が幅をきかすLセグメントサルーン市場において、これは燦然と輝くイタリアの魂でもある。その昔、マセラティとともにイタリアを代表するラグジュアリーブランドとして名を馳せたイソが消え、ランチアがかつてほどの勢いを失った今、マセラティとそのフラッグシップモデルであるクアトロポルテはイタリア最後の砦でもある。

現行クアトロポルテは、2013 年にNAIAS(北米国際自動車ショー=通称デトロイト・ショー)でワールドプレミアを果たした6 代目だ。それまでにもマセラティに大型サルーンは存在したが、歴史を遡れば、初めてクアトロポルテの名称が使用されたモデル、すなわちTipo AM107が登場したのは1963 年となる。当時、欧州でも著名なカーデザイナーであったピエトロ・フルアが立ち上げたカロッツェリアのフルア社がボディワークを担当したこのモデルは、排気量4 1 3 6 c c のV 8 エンジン(後にV 8 の4719cc 版も追加)を搭載する全長5mにも及ぶけれん味あるスタイリングが大きな話題を呼んだ。旧いマセラティに詳しい方であれば、ピエトロ・フルアは、ミストラルのデザイナーと紹介した方が通りは良いかもしれない。

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2代目のTipo AM123は、ベルトーネに在籍中だったかのマルチェロ・ガンディーニがデザインワークを担当。当時のマセラティは仏シトロエン傘下であったため、シトロエンSM用の排気量2965ccのV6エンジンを搭載した。1974年から1978年まで4年間のモデルライフをまっとうしたが、実際その間に生産されたのはわずか13台のみだったといわれている。その反省を踏まえた3代目のTipo AM330は、イタリアンデザイン界の巨匠、ジェルジェット・ジウジアーロがスタイリングを手がけた。当時、クラス最高峰との誉れ高かったメルセデスのW116(後のSクラスのルーツ)やBMWの7シリーズ(初代)に対抗しうる唯一のイタリアンラグジュアリーサルーンとして、1979年から1990年までの永きに渡って生産を続けたヒット作となった。

若干のブランクの後、1994年に4代目となるTipo AM337がデビュー。デザインはベルトーネから独立したマルチェロ・ガンディーニがふたたび担当。ボディサイズはビトゥルボ系のプラットフォームをベースとしたことにより幾分コンパクトになったものの、ガンディーニのアイコンともいうべき斜めに描かれたリアのタイヤハウスを持つ独特のアピアランスや、強力なツインターボエンジン(排気量1993ccのV6、2790ccのV6そして3217ccのV8の3エンジンを用意)の採用により、確固たる存在感を示した。それまでのデ・トマゾからフィアット傘下となり、体制が一新された後に登場した5代目のワールドプレミアは2003年9月のIAA(通称フランクフルト・ショー)であった。しかし、実はその1カ月前となる8月の米カリフォルニアで毎年回されているペブルビーチ・コンクー
ルデレガンスでプレビューイベントを開催。優良顧客を中心にお披露目をひとあし先に行っている。

これは、当時ピニンファリーナに在籍していた日本人デザイナー奥山清行の手によって大胆にモダナイズされたデザインを武器とし、ラグジュアリーサルーンの主戦場であるアメリカ市場を意識したゆえのグローバル戦略だった。ちなみに、マセラティがピニンファリーナと手を組むのは、実に半世紀ぶりのこと。そうした背景からも、5代目クアトロポルテがあらゆる面でマセラティの新時代を象徴したモデルだったことが伺える。メインマーケットとされた北米はもちろん、日本でも過去最高の販売実績をあげたこの5代目は、10年の永きに渡り生産され続けたロングセラーモデルとなった。現行モデルM156にバトンタッチを行ったのは、冒頭で紹介した通り2013年。フィアットグループ・チェントロスティーレのチーフデザイナーだったロレンツォ・ラマチョッティ(元ピニンファリーナ在籍)がデザインを担当した。

トップグレードのGTSグランスポーツに搭載されるのは、クアトロポルテの代名詞ともいえるV8エンジン。排気量3799ccのツインターボで、最高出力は530psを誇る。クアトロポルテにはV6エンジンを搭載した4WDモデルもラインナップするが、こちらはスーパーカー並のV8パワーを後輪だけで受け止める典型的な高性能ビッグサルーンに仕立てられている。その「スーパーカー並」という表現は単なる比喩ではない。スペックシートには、0-100km/h加速をわずか4.7秒で完了し、最高速度は310km/hに達すると、魅力的な数字が並ぶ。高性能をウリにするドイツ勢に一歩もひけを取らないパフォーマンスである。

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ダウンサイジング流行の今どきにあって、全長5270mm、車重2060kgの巨大なボディでスーパーカー並のパフォーマンスを、しかもコンベンショナルなFRで成立させるには、エンジンのみならず強靱なシャシーが不可欠。事実、先代で初採用され熟成なったスカイフックサスペンションは21インチサイズのタイヤを履きこなし、手練れのテストドライバーによって熟考されたアルゴリズムを持つIVC(インテグレイテッド車両コントロール)が意のままのハンドリングを実現する。例えリッチなカスタマーも納得のゆとりあるスペースを後席に持とうとも、ひとたびクアトロポルテのステアリングを握れば、このクルマが1963年のデビュー以来変わらずドライバースカーであることを無言のうちに知らしめる。

モダナイズされた内外装のデザイン、特にマセラティというブランドのフラッグシップモデルに誰もが期待するインテリアの雰囲気と質感は、ドイツ勢にはないクアトロポルテのアドバンテージだ。さらに、ストップ&ゴー機能搭載アダプティブクルーズコントロールやフォワードコリジョンウォーニング プラス( FCWプラス)、レーキーピングアシスト、ブラインドスポットアラート/ アクティブブラインドスポット アシストなどなど、フラッグシップモデルにふさわしい充実したADAS(先進運転支援システム)の採用も、ドイツ勢にひけを取らない要素として紹介しておきたい。

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現行クアトロポルテの中でも、最強のエンジンを搭載するGTSグランスポーツに乗る。それは、マセラティが綿々と守り続けてきた伝統的な4ドアサルーンのダンディズモと最上級のイタリアンエレガンス、そしてスーパーカーたちに比肩する圧倒的なパフォーマンスを同時に味わうことであり、100年を超えたブランドの偉大なるアイコンを所有することにも他ならないのである。

文:櫻井 健一  写 真:佐藤亮太 Words: Kenichi SAKURAI Photography:Ryota SATO

マセラティ クアトロポルテGTS グランスポーツ
ボディサイズ:5270x1950x1470mm ホイールベース:3170mm 車重:2060kg 駆動方式:FR 変速機:8段AT
エンジン型式:V型8気筒ツインターボ 排気量:3,799cc 最高出力:390kW (530ps)/6700rpm
最大トルク:710Nm/2000-4000rpm 本体価格:1970万円

マセラティジャパン https://www.maserati.com/maserati/jp/ja

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