様々な視点からドライバーを楽しませるアストンマーティン・ヴァンテージ。 アストンマーティンらしい筋肉質なボディを持ち、 ロードカーとしても純粋に走りを満喫することができる。
例えば「おおっ!」だとか「うわっ!」だとか「んんんっ!」だとか、こうして文字にしてしまうと 恐ろしく子供っぽくて陳腐な感じがして赤面モノ ではあるのだけど、新しいヴァンテージを初めてワインディングロードに連れ出すことができた日の僕の心の中は、始終、そんなふうな感嘆符で満たされていた。 楽しかったのだ。気持ちよかったのだ。出来映えの素晴らしさに感動させられたのだ。
何が感嘆させられたかといえば、510psと685Nmを発揮する4リッターV8ツインターボ+ZF製8速ATと、基本的に同じパワートレーンを積むDB11 V8より優に100kgは軽い車体の組み合わせが生み出す、弾けるような加速ももちろんいい。アクセルペダルを深く踏み込むと、相当に速い。判りやすい数値を提示するなら、静止状態から0-62mph(約100km/h)までの加速タイムは3.7秒。これはDB11の発展版であり、パ ワーで129ps上回る639psのV12ツインターボを積んだDB11 AMRと全く同じなのだ。
回転が高まるほどにシャープさを増すレスポンス。AMG GTなどとは異なる、角が少しまろやかなアストンらしく調律されたサウンドのタイトな盛り上がり。スムーズで素早い、まさに加速度的な速度の伸び。それらを一挙に味わうのは、かなり楽しい体験だ。
回転の上昇に比例して快感指数も膨らむから高回転を好むタイプかと錯覚しがちだが、このエンジン、実は比較的フラットな性格。2000回転辺りから強力なトルクを沸き立たせ、パワーはピークの6000回転まで直線的に伸びていく感じだから、どこからアクセルを踏んでも俊敏で獰猛な加速を手に入れることができる。あらゆる局面で速さを引き出しやすい。
けれど、最も大きな感嘆符はそこではない。ヴ ァンテージは、とにかく曲がる。物凄くよく曲がるのだ。DB11 V8よりホイールベースが101mm短かいことからも運動性能というものを念頭に置いた基本設計であることは明白だし、ドライバーの着座位置が低くセットされていることからも目指した方向は理解できるというものだけど、その曲がりっぷりのよさは、世界的に評価の高かった 先代ヴァンテージもDB11のシリーズも大きく凌いでいる。
DB11以降のモデルではパワートレーン系とシャシー系の走行モードをそれぞれ3段階ずつ別々に選べるわけだが、最もソフトな"スポ ーツ"─つまり"GT"モードは存在しない─のままでも、ヴァンテージはすっきりとしたキレのいい感覚を伝えながらすんなりと素直に曲がってくれる。
"スポーツプラス"にすると、長いノーズはさらに素早く気持ちよく、コーナーの内側へと向かっていく。操作に対する車の反応は適度にシャ ープで見事に正確。イメージしたとおりに曲がってくれる印象で、鬱陶しいアンダーステアなど微塵も感じられないし、リアが裏切って弾け飛んでいくような不安感もない。
アストンマーティンにしては"攻めた"スタイリングデザインと評されることも少なくないが、走らせてみればその理由は一発で理解できるし、ストンと腑に落ちる。それでも少しも"らしさ"を失ってないのはさすが、だ。
そして"トラック"に切り替えてみると、さらにおもしろい。実際にはあり得ないことなのだけど、まるでホイールベースが短くなったような感じで、 フロントのタイヤがコーナーの内側を向いてリア のタイヤが追従していくときの動き─つまり車が 回り込んでいくときの動きがハッキリと素早くシ ャープになるのだ。
そこからさらに頑張って攻め 込んでいくと、リアタイヤは結構なところまでしっかりと踏ん張った後にグリップを手放していくのだが、常に4輪がどんな状況にあるのかをハッキリと伝えてきてくれて、なおかつペダルやステアリングの操作に対する反応が素早く正確というヴァンテージの基本的な持ち味が味方してくれるから、そうヒヤリとすることもなくコントロールを楽しめる。
というと、いかにも僕のドライビングが巧みであるかのようだけど、そういうわけでもないのだ。 ヴァンテージにはコーナー内側のブレーキをつまむトルクベクタリングや瞬間的にオープンから 100%ロックまでをシームレスに切り替えてくれるEデフなどの電子デバイスが備わっていて、連携しながら車の動きを巧みに制御してくれる。そのシステムが強力にアシストしてくれているはずなのだ。
ただし感覚的には極めて自然で、デバイス類の介入も解除もほとんど感知できない。そこまで含めてハンドリングの一環という思想の下、 ドライバーの意志に対して全てが的確に反応するよう作られているのだろう。それこそがヴァンテ ージのアドヴァンテージなのだ。乗り手は、ただただ楽しく気持ちいい。
そういう車だからこそDB11のエレガンスと較 べれば雄々しく引き締まった乗り味だが、スポー ツドライビングを純粋に楽しめるという点におい て、ヴァンテージはアストンのロードカー史上最強の存在だ。美しい肢体に包まれたそうした骨太な精神性も、またアストンマーティンの伝統なのである。
現行ラインナップの中で最も低い着座位置。最も小径にしてDの字型となるステアリング。 DB11よりもあえてシンプルなあつらえのトリム類。ヴァンテージはインテリアも、ラインナップ中で最もスポーツ性重視の作りだ
操作にまつわるほとんどのスイッチ類は、センターコンソールに集中レイアウトされている。慣れればブラインドタッチすら可能な配置も、スポーツドライビングには重要。レザーのニーパッドが、この車の性格を語る。
メーターは徹底して見やすさ 重視。走っていても欲しい情報は一発で見てとれる。円形のナセルの両脇下側は、右がパワートレーン系、左がシャシー系の走行モードの表示。切替はそれぞれステアリングにあるボタンで行う。
ヴァンテージが履いているタイヤは、ピレリと共同開発した専用スペックのPZERO。シャシーの特性とのマッチングを計るため、50種類以上のスペックを様々な状況下で徹底的にテス トした結果、決めたものだという。
アストンマーティンらしさこそ失ってはいないものの、ドアを閉めるハンドルが革ベルトとさ れるなど、見るからに"軽量化"を意識したあつらえ。おかげで車重は同じパワートレーンの DB11 V8よりも120kgほど軽くなった。
パワーユニットは AMG由来の4リッターV8ツインターボ。それが見事なまでのフロント・ミドシップに、しかもグッと低くマウントされている。ヴァンテージは設計段階から徹底的に"運動性能"というものを意識してるのだ。
いうまでもないが、グランツーリスモ的な使い方だって当然できる。荷室の前部は室内からそのままアクセスしやすく、脱いだジャケットやバッグなどを置くためのスペース。仕切りを倒して後部とスルーにすることも可能。
文:嶋田 智之 写真:芳賀 元昌 Words: Tomoyuki SHIMADA Photo:Gensho HAGA
【中四国地方で初開催のNEW VANTAGE特別試乗会】
ご紹介をしてきたVANTAGEだが、この度中国・四国地方初となる特別試乗会が開催される。より洗練されたアイコニックなフォルムと、自らハンドルを握ってこそ実感できる「NEW VANTAGEの走り」をぜひ体験してみていただきたい。
日程:9月15日(土)・16日(日)・17日(月・祝)
会場:アストンマーティン広島 ショールーム
試乗車種: NEW VANTAGE
※事前予約制となります。お申し込みに関してはこちらよりご確認ください。
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