もはや、ブームどころの騒ぎではないだろう。自動車全体の実に3割がSUVという時代にあって、それはもうフツウの選択肢となった。セダンやハッチバック、ミニバンの代わりにSUV。それゆえ、セダンに対してクーペやスーパーカーが存在したように、SUV界でもスペシャルモデルが続々登場しはじた。
ベントレーもまた2015年にSUVのベンテイガをワールドプレミアしている。デビュー当初はお馴染みの6リッターW型12気筒ツインターボエンジンを、わざわざ新開発して積んだ。今となっては12気筒エンジンを積む車自体がレアだが、SUVとなるともっとレア、というところにベンテイガのセールスポイントがあったのだ。
ところがその後、本国では4リッターのV8ディーゼルトリプルチャージャー(日本未導入)を追加。続けて、ガソリンの4リッターV8ツインターボ仕様も導入した。さらにこの春、プラグインハイブリッドのベンテイガを発表している。つまり、現時点で、ベンテイガの本国仕様パワートレーンは4 種類。最多の選択肢を用意するモデルになった。それだけ高級車の世界でも、SUVがスタンダードになりつつあるということだ。
今回の主役は、とりあえず日本市場では二番目のパワートレーンとなったガソリンV8モデルである。W12を先にリリースして、V8を後から追加するという手法はすでに、コンチネンタルGTやフライングスパーでの成功体験がある。ベントレーにとっては手慣れた戦略であり、また、ベントレーといえば歴史的に8 気筒を好むユーザーも多い。
4リッターV8をはじめ、ZF製の8段ATに、前後40:60のトルク配分をもつ4WDシステムというパワートレーンの組み合わせは、VWグループ内における共同開発ユニットだ。スペックだけを見れば、同じプラットフォームとパワートレーンを使う、ポルシェのカイエンターボあたりとよく似る。とはいうものの、ブランドが理想としたパフォーマンスを達成すべく、パワートレーンには独自のキャリブレーションが施された。最高速設計やオフロードモード、静粛性など、ベントレー独自のエンジニアリングで仕上げられている。
エクステリアをみると、ブラックアウトグリルや新デザインのアロイホイール、楕円形エグゾーストパイプあたりが、W12グレードと見分けるポイントになる。ちなみに、それらはV8ディーゼルにも使われている。
雪がまだ残るオーストリアのスキーリゾート、キッツビュールで国際試乗会が行われた。試乗を前に、開発を担当したエンジニアが「コンチネンタルGTのときとは違って、W12グレードとできるだけ同じライドフィールになるようセッティングした」と言う。
W12ベンテイガの乗り味は、とにかく洗練されていて、ベントレーらしさに溢れていた。重厚でかつ精緻、スムースなライドフィールが魅力だ。そのうえで、サーキットからオフロード、砂漠までを走破できるオールマイティな性能が与えられていた。ベンテイガが、究極の乗用車だと評価される所以でもある。
エンジニア氏の前口上とはウラハラに、V8 ベンテイガを実際に駆ってみれば、W12モデルよりもいっそう軽快でスポーティなドライブフィールだと感じた。鼻さきの動きが明らかに軽く、アクセルペダルを踏み込んだときの車体の反応にもダイレクト感が強調されている。エンジンまわりで50 キロほど軽いとはいえ、そもそも2.4トンもある重量級モデルだ。女性ひとり分、50キロ程度の差が、それほどはっきり現れるものだろうか?
試乗を終えて件のエンジニア氏をもういちど捕まえてみる。筆者のインプレッションを伝えると、いくつか理由が考えられるという。
たとえば、小径のタービンを採用したことによる出アシのクイックさと、前のめりにシフトアップするオートマチックのセッティング、加速中に聞こえてくる刺激的なV8エンジンサウンド、このあたりの要素が乗り手の心を大いに揺さぶった結果、W12に比べていっそうスポーティに感じてしまったのでは、というのだ。
確かに、V8エンジンの発するエグゾーストノートは豪快だった。アメリカンマッスルカーのそれに近い迫力だ。とはいえ、そこはベントレー。エンジンフィールはやっぱり洗練されており、低回転域からきめ細やかに、そして几帳面に回っていく。どの領域でも、右足の裏が喜んでいる。
車体の身のこなしは、どこまでもしなやかだ。安心が詰まっている。雪を固めた滑り易い路面でも試乗したが、制御はほとんど完璧で、トラクション性能がとてつもなく素晴らしい。存分に楽しめた。
場面を選ばないコンフォートさと、意のままに操れる感覚こそが、ラグジュアリーカーらしさの究極ということだろう。なかでも、ドライブモードをベントレー(オート)にしたときの快適さは格別だ。
なるほど全体的には、エンジニア氏の言うとおり、V8の走りは、W12と遜色なかった。ということは、これからのベンテイガ、否、ベントレーの主役は、2000万円を切る価格でスタートするであろう、このV8モデルのベンテイガであると言って良さそうだ。
Bentley Bentayga
エンジン 6.0リッター W12 ツインターボTSI ボディサイズ 5150mm×1995mm×1755mm ホイールベース 2995mm 車両重量 2530kg 排気量 5945cc 最高出力 447 kW / 608 PS @ 6000 rpm 最大トルク 900 Nm / 664 lb.ft @1350-4500 rpm 本体価格 2786万円
ベントレー公式サイト: https://www.bentleymotors.jp/
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