オクタンはいち早く話題のベントレー・コンチネンタルGTに試乗する機会に恵まれた。実際に乗ったそれは、さまざまな驚きに満ちていた。
コンチネンタル──名前を聞いただけで体が熱くなる。1950年代、コンチネンタルは世界でもっとも美しい車の座を欲しいままにしていた。そして2003年にその伝説的な名前は、フォルクスワーゲンに買収されたあとの最初の生産車に冠せられて復活した。
コンチネンタルという名は、それだけベントレーにとって重要な役目を担っていたわけである。さらに2018年、ベントレーはすべてがまったく新しい3代目コンチネンタルを送り出した。先代と同じくコンチネンタルGTと名づけられたその車は、先代のような控えめな役割ではなく、真にフォルクスワーゲンを支える柱となって登場した。
別の柱にはポルシェ・パナメーラもいる、そんな立ち位置である。ベントレーの技術者たちは隅から隅までポルシェと同等の仕事ができるとあって開発には熱が入った。まずは使われるパーツの在庫状況を正確に洗い出すことから始まった。ここを正確に把握しておかないと生産モデルの品質にバラツキが出てしまうからだ。
コンチネンタルGTの心臓部は先代と同じく、轟音をとどろかせるツインターボ付き6リッターW12エンジンが載せられた。排気量もまったく同一だが、新型では点火順序を見直した結果、より活発な回り方をするものに生まれ変わった。組み合わされるギアボックスはベントレーとしては初めてのデュアルクラッチ内蔵の8段ATだが、これはパナメーラで使われているものと完全に同じものである。
駆動方式は先代と同じく4WDで、それがもたらす動力性能はご想像のとおり、地を揺るがすほどのものである。最高出力は 626bph/6000rpm、最大トルクは664lb-ft(約91.8mkg)を1350から4500rpmの幅広い回転域の中で発生する。ピーク値を追うよりも山をならしたトルクカーブを採用した結果、およそ40%の範囲で先代より強いトルクを感じられるようになった。
また、ラウンチ・コントロールシステムを採用した結果、2244kgの重い車重を0-60mph(約96km/h)加速で3.6秒、0-100mph(約160km/h)では9秒を切る俊足ぶりを発揮する。最高速は207mph(約333km/h)だ。そんな野獣のような動力性能を確保しているうえに、2244kgの重い車重ではありながら先代とくらべれば76kg軽くされたのだから、速さを増していることは確実である。
207mphのスピードに達する前、ゆとりの表情を見せるサトクリフ。新しいボディは先代モデルより低く、スリークだ。
シャシーやサスペンションは大きく改良された。先代よりも快適さを増したのは確かだが、スポーティーな面では比較できないほどだとはベントレーの説明。何度も言うが、ポルシェとの部品共有はこの点を最大の目的としているのだ。W12エンジンは従来より約150mm後方に搭載されている。
それだけで重量バランスは大きく変わったとエンジニアはいう。サスペンションはフロントがダブル・ウィッシュボーン、リアがマルチリンクで、それぞれに3つのチャンバーを持つエアサスペンション・システムが、前後とも48Vで作動する電動の"アクティブ"アンチロールバーとともに備わる。いずれの新要素も新型GTのコントロール性能を上げるのに一役買っている。
ブレーキはこれまでのどの市販車よりもビッグサイズの(先代でもそう言っていたが)前420mm、後380mm径のベンチレーテッドだ。同時にパワーとトルクを振り分ける4WDシステムは徹底的に見直され、またコンフォート、ベントレー、スポーツと呼ばれる3つのモードから好きな駆動力配分を選ぶことができる。そのほかにも走行モードに関してはあらゆるものがドライブメニューから細かく選べるだけでなく、好みの設定にカスタマイズすることもできる。
「 もはや車体の重さは問題ではありません。車の挙動に関して、我々はどんなものでもコントロールできる時代になったということです」と語るのは、コンチネンタルGTのチーフシャシー・エンジニアのキース・シャープだ。
3つの走行モードに興奮
我々はいま、生産前段階のモデルでテスト走行をさせてもらうためにここ、アングレシーに来ている。顧客への納車はこの夏ということだから、だいぶ先駆けて乗せてもらうわけだ。まず駆動力を設定する。コンフォートでは前輪に36%のトルクを配分するが、これはGTを普通の4WD車として走らせるモードだ。
ベントレー・モードを選ぶと、フロントへのトルク配分は少し下がって、もっとスポーツ寄りになる。このモードでは長距離を巡航する場合などで落ち着きのある乗り味が楽しめる。感覚的にはスポーティーだが、乗り心地とボディコントロールのバランスが絶妙で、軽いが動きに精密感のあるステアリングとともにきわめて洗練された走りを見せてくれる。
スタイリングのテーマは1952年R タイプ・コンチネンタルから得ているが、このニューカーの中身は純粋に最先端の技術から成り立っている。
ワインディングロードでのGTの動きはすばしこさを感じさせるものだ。しかし軽快というのとはちょっと違う。GTの重量は相当なものだが、それを切れ味の鋭いエンジンとギアボックスがドライバーの動きに敏感に反応して重さのハンディをうまく覆い隠しているからだ。
キースの言ったとおりだ。いとも簡単にそのようなことをやってのける様は、一度でも経験してみなければわからない。そういえばこの感覚はどこかで経験したと思ったら、ヴェイロンがこんな挙動を示していたことを思い出した。
動力性能に関してはまだ言い足りないが、サスペンションやライドコントロールも、そしてデュアルクラッチ式ギアボックスも、すべてがエクセレントである。W12エンジンにかつて存在したターボラグが、新型では皆無だったことも付け加えておこう。
このGTはスロットルを踏んだ瞬間から突き進む。だが、これもまだスポーツモードに入っていない段階での話。これを選ぶとどうなるか。GTをサーキットで走らせてみると、ベントレーというブランドごと「えらく遠いところに行ってしまった」と感じざるを得なかったのである。このスポーツモードではフロントへのトルク配分は17%だけで、残りは全部リアに回される。そしてダンパー、スロットル、ギアボックス、エグゾーストといったメカニカル部分はすべて、スポーツの快感へと総動員されるのである。そしてGTは完全なるスポーツカーに近づく。それが示す動力性能は、もはやこの車が重量級であることをすっかり忘れさせる。BMW M3のようにひらひらと振り回すわけではなく、けっして軽快ではないものの、その延長線上にある同じ種類の動きであることはたしかだ。
それはEPSのおかげでもある。もしそれをオフにしたら、ベントレーも言っているが、にわかに信じられないことが起こるだろう。100ヤードものパワースライド、といったら大げさだが、そんなことが起きたとしもノープロブレム。右にあるボタンをひと押しすれば、たちまち新品の22インチ・リアタイヤを心ゆくまでズタズタに裂くことができる!
そんな獰猛な面があるいっぽうで、一般路上においては先代より格段に快適でリファインされた姿を見せる。それは現在買うことのできるあらゆる価格帯の車の中でも、もっともハイクォリティーなキャビンの車といってもいい。先代とくらべても10倍はすぐれている。16万ポンド未満のGTと範囲を狭めれば、もう完全に世界ナンバーワンの車だ。
編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA
Words:Steve Sutcliffe
コンチネンタルGTを裸にするステファン・ジーラフが語るGTの全魅力
Sculpting the new Continental GT
「コンチネンタルGTには我々が持っているものをすべて集約したつもりです。中でもエレガンスという要素はとても大切に扱いました」ジーラフは最新の作品へのインタビューをこう切り出した。
コンチネンタルGTの見どころはボディ側面のピンと張った彫刻のような造形にある。"スーパーフォームド"というこれまでにない技術によってなしえたもので、それはアルミ板を500℃に熱してから高圧のエアによって形状を作っていくという手法で、これをボディ側面の造形に使用したのはこの車が初めてとなる。この手法によりデザイナーはよりシャープなラインを実現することが可能となり、コンチネンタルGTでは腰にあたる部分にそれを見てとることができる。この技術はまた軽量化にも貢献し、2トンを超える重量級ではあるものの、先代に比べれば80kg近い重量軽減を果たしている。
ジーラフは、ラクシュリーの面でも「無機質や奇抜さは避け、心暖まる、これまでとは違ったアプローチ法」をとったとしている。また、彼はベントレーらしい外観を装うための伝統的な手法についても話してくれた。
「自らの手を使って仕事をすることの大切さを感じています。我々はまだクレイモデルを使用しています。もちろん最新のコンピューターを利用したモデリング技術も持っていますが、うちでは遅かれ早かれクレイモデルがメインになるでしょう。触感はとても重要なことなのです。我々は慎重にクレイモデルからコンピューター・デザインに移行してきたはずですが、それは感性の欠如というものにつながってしまいました。我々はデザインのやり方について、もう一度考え直してみる必要があると思います」 今さらいうまでもないが、人間の目はたいへん優れている。だが、デザイン学校や企業のデザイン専門機関が長年にわたって、完全な採光のもとでものを見ることに重点を置いてきたことを忘れてはいけないというのだ。
ジーラフはこう続けた。「我々は灰色に塗ったクレイを日光や暖色系の光のもとで検討しますが、電気の光の下では見ないのです。実際に私たちはバルセロナにある仕事仲間、セアトのところにクレイを持ち込んだのですが、イギリスのクルーで見るのと全然違うのです。光がいいからよく見えるのですね。彫刻の中で起こる光の反射といってわかりますか?わかりづらいかもしれませんが、我々人間は無意識のうちに光と影の違いを認識してしまいます。彫刻作品を美と捉えるのも、その感覚なのです。偉大な芸術写真のように捉えられるのです」
ジーラフはベントレーのデザイン部門の責任者というだけでなく、フォルクスワーゲン・グループ全体にわたってインテリアデザインを総括的に監督する立場の人間でもある。いい例が最新のベントレーとアウディの最上位車種だ。両車は同じくらい快適さを追求した車だが、けっして同じであってはならないとされ、それぞれに違いを持たせている。ベントレー・コンチネンタルGTに用意されたのが、ダッシュボード中央の"しかけ"だ。この部分だけで3通りの働きをする。ひとつめがナビやオーディオ、空調などを表示する12.3インチの超ワイドTFT液晶パネル、もうひとつが外気温、方位、ストップウォッチの高品位な計器を配したクラシックな形態のインストルメントパネル、そして何もないシンプルなウッドパネルと、これら3つが回転して現れるしくみ。ウッドパネルはダッシュからドアトリムまで広範囲に貼られてハートウォーミングな雰囲気を演出することも特徴のひとつだ。また、シート材の表面にはダイヤモンドカット(わかりやすくいえば菱形)のキルティングが施される。このダイヤモンドはそれぞれ712ステッチで刺繍されるという、きわめて手の込んだものだ。
オーディオも素晴らしい。マニアも黙るメイム・オーディオはこの車のために開発されたもので、ノイズの侵入を防ぐとともに音の反射を抑えたラミネート貼りのガラスもよい音づくりに貢献する。そのいっぽうで、626bhpの出力と2244kgの車重は環境面ではけっして優しいものではないが、製造工程でそれを補っている。ベントレーのクルー工場の屋根には2 万815 枚のソーラーパネルが貼られており、年間250万トンものCO2の排出を抑制しているのである。
聞き手:Glen Waddington
2017.12.19 Tokyo
独創的なグランツーリスモの登場
新型ベントレーコンチネンタルGTが、ついに日本で披露された。従来型に増してさらに迫力を感じさせるエクステリアだが、そのデザイン基調は2015年のジュネーヴショーで発表されたベントレーのコンセプトカー「EXP10 Speed6」にさかのぼる。この新型コンチネンタルGT、ひと目見て実にアグレッシブなスタイルだと感じさせる要因は、そのプロポーションに因るところが大きい。先代に比べてホイールベースは106㎜長くなっているものの、そのほとんどはフロントアクスル位置を前進させることに使われている。つまりフロントオーバーハングが短くなったことで、さらにエレガントさが引き立ち、しかもスポーティさが強調されているのだ。
この英国車らしいデザインバランスは、1953年にデビューしたベントレー「Rタイプ コンチネンタル」のそれに近い。パワーラインと呼ばれるフロントフェンダーからドアにつながるプレスラインや、ハウンジラインというリアフェンダー付近の流れなど、多くのイメージがRタイプ コンチネンタルから受け継がれているという。
新型のボディは、トランクリッド以外はすべてアルミ製となっており、これにより85kgもの軽量化に成功している。インテリアデザインはキャビン全体を取り囲むウッドパネルとしっかりとしたセンターコンソールが特徴的。
エンジンはTSI6.0リッターW12気筒。アイドリングストップおよび3,000 回転、300Nm 以下で6 気筒を気筒休止するシステムが採用された。最大パワー635ps、最大トルク900Nm。0-100km/h加速は3.7 秒。最高速度は333km/hに達する。2018年秋頃のデリバリーとなる。
2018年ベントレー・コンチネンタルGT
エンジン:W型12気筒、DOHC(バンク当たり)、5998cc、48バルブ、ツインターボ
最高出力:626bhp/6000rpm 最大トルク:664lb ft(約900Nm、91.8mkg)/1350〜4500rpm
変速機/駆動方式:8段デュアルクラッチ式AT 4WD ステアリング:ラック&ピニオン パワーアシスト
サスペンション(前):ダブル・ウィッシュボーン、エアスプリング/ダンパー
サスペンション(後):マルチリンク、エアスプリング/ダンパー
ブレーキ:ベンチレーテッド・ディスク 重量:2244kg
最高速:207mph(約333km/h) 0-60mph(約96km/h)加速:3.6秒
メーカー希望小売価格(消費税込):25,680,000円
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