スポーツカーとしての性能を高めながら、エレガントと実用性を兼ね備えたDB11ヴォランテ。まさにオールラウンドなグランドツアラーといえる。
搭載エンジンはV8のみで、V12の設定はない。同エンジンを搭載するクーペと比べて100㎏以上重いものの、0-100km/h加速は4.1秒とクーペより0.1秒遅いのみ。また最高速度はクーペと同じ300km/hに達する。
トップは静粛性に優れた8層構造のファブリック。オープンは14秒、クローズには16秒を要する。このソフトトップの開発には10万回以上の耐久試験を実施した。
クーペ同様、リアスポイラーを排除したすっきりとしたエクステリアが特徴的だ。「アストンマーティン・アエロブレード」は、このヴォランテでも生かされている。
DB9ヴォランテと比べるとドアの開口部が大きくなり、フロントシートのヘッドルームは拡大している。乗車定員は4名で、ある程度実用性のある2+2仕様と言える。
ヴォランテ=Volanteとはラテン系の言葉で、その意としては「ステアリング」が有名だが、イタリアでは空を舞うような軽快感や開放感になぞらえることもあるそうだ。それをアストンマーティンが自社のオープンモデルに形容詞として纏わせたのは半世紀以上前のこと。なんともロマンティックな話ではなかろうか。
そんなアストンマーティンにとって最新のヴォランテは、DB11をベースとしたモデルになる。その車体構造はヴァンキッシュから更に進化した第五世代のVHプラットフォームで、搭載エンジンはV8のみ。その最大の狙いは動的質感と運動性能の最適化にあり、エンジン長の短縮で生まれたスペースにサブフレームを追加することでフロントセクションを箱組化したほか、リアセクションではサス取付部やバルクヘッド部に強化が加えられるなど、車体剛性を強化しながら車重をV12のクーペとほぼ同等としている。一方で前後重量配分は47:53とハイパワーFRスポーツとしてより理想的なところに設定出来ているあたりに、搭載エンジンをコンパクトなV8に絞った効果が現れているようだ。
とはいえ、AMGとの共同開発となる4リッターユニットは510psを発揮、ZF製の8速ATとの組み合わせで最高速は300km/h、0〜100km/h加速は4.1秒と今日的なオープンスポーツとして納得できるところをマークする。もっとも、DB11ヴォランテを求めようというカスタマーにとってその数字は厳密な意味を持たないだろう。むしろ重要なのは日常遣いでの快適性やいざ鞭を入れた時の官能性がいかなるものかということにあるはずだ。
ルーフを開け放ったとき、シートバックファサードの施されたウッドまたはカーボンファイバーのパネルがよく見える。このデザインはまったく新しく革新的だ。
FRスポーツとしてこれ以上はないという究極的なプロポーションを崩さないよう、シームを感じさせない立体的な形状で仕上げられた幌屋根は、部分的に8層構造となっており、徹底的に音や外熱を遮断する。3段階のダンパーレートが設定できる足回りは柔らかいというよりもいなしが効いたしなやかさを押し出しており、それを支えるボディ側も剛性面での不満はまったく現れないため、常速域からの乗り心地はすこぶる洗練されている。
条件が目まぐるしく変わるタイトなワインディングなどでもアクセルを安心して踏んでいけるのは、V8がゆえの鼻先の軽さに加えて、このシャシー能力の余裕によるところが大きいだろう。最も硬い設定であっても大径タイヤはバタつくことなく路面の凹凸に滑らかに追従し、車体姿勢は努めてフラットに保たれる。
屋根の抜けもかえって奏功しているのか、路面変化に対する応答の優雅さという点ではクーペよりむしろ好感がもてる仕上がりだ。もちろん、軽やかなサウンドを伴って心地よく吹け上がるエンジンが、スポーティネスとエレガンスを適切に両立したこの車にとってベストマッチであることは、乗れば疑いようがなくなるだろう。
文:渡辺敏史 Words:Toshifumi WATANABE
写真:アストンマーティン image:AstonMartin
アストンマーティン DB11ヴォランテ
ボディーサイズ:4750×1950×1300mm
ホイールベース:2805mm
車重:1875kg 駆動方式:FR 変速機:8段AT
エンジン型式:V型8気筒
排気量:3982cc 最高出力:510ps/6000rpm
最大トルク: 68.8kgm/2000~5000rpm
本体価格:2276万円(税込)
Aston Martin
https://global.astonmartin.com/ja
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